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観劇日記#2 スペースノットブランク 『ストリート』
2021年9月5日 スペースノットブランク 『ストリート』@富士見市民文化会館キラリふじみ
スペースノットブランク(以下スペノ)の「フィジカル・カタルシス」というシリーズの舞台作品の新作『ストリート』。このシリーズは演劇作品と簡単に括ることができないので正直「観劇日記」という記事のタイトルは自分でもイマイチなんだけど、広く舞台芸術と捉えてるということで許して欲しい。これが演劇では無いと言いきることもできないので。
僕が初めてこのシリーズを観たのは一年前、夏の駒場アゴラ劇場。今回でいう『ストリート』のような「フェーズ」が五つもある大きい作品だった。そして今年の三月に吉祥寺シアターで『バランス』を観て、今回の『ストリート』が三作品目でした。このフィジカル・カタルシス体験の中で少しずつ分かってきたのは、この作品は「フェーズ」ごとに設定された「テーマ、シチュエーション、ねらい」のようなものがあるらしく、その条件下でどのような身体の動きが生み出されるかを観察する、実験のような作品であるということ。そしてその実験性はどんどん強くなっている気がする。一年前の「フィジカル・カタルシス」では連続するフェーズの展開や、発話、音楽と歌と楽器、モニター、照明などなどの演劇脳が刺激される要素(もちろんそれらも身体の動きのために「設定」されたものと考えることができるが)が多く含まれていた。しかし『バランス』と『ストリート』ではよりシンプルに身体表現脳(こんな脳が僕にあるかどうかは分からないけど)が働く作品になってきているんじゃなかろうか。どちらの作風も違った爽快感があって、違うふうに好いてる。
さて😗(ヒュー)
今回の『ストリート』ではまず最初に観客が指定された演者に着いて、会場の外の道を三班に分かれて歩き行き、また戻ってくる時間があった。往路、僕が着いて行った山口さんはごく自然に歩き、その後ろを同じように歩いて行った。演者と演者を視ている他の観客、その両方を視ている私、が同じ「動作」をしていることで、不思議な感覚になった。「身体表現を観にきた私が演者と同じ動きをしている不思議さ」には二つ理由があると思う。一つはよく言われる「ステージと客席の境界線」のようなことについてで、それが徹底的に取り払われていて、作品との距離感が極端に近かったこと。終演後のトークでは「当事者性」という言葉も出ていた。この後も作品全体を通してその境界線は観客一人一人に設定を委ねられているような状態だった。もう一つは身体表現、ダンス、動きということについて。ただ歩いているだけの演者をみていると「歩く」という行為が「移動手段」というような意味を失った、一つの動作として振付された「踊り」と等価なものとして見えてきたということがあったと思う。
でも復路では、この二つ目の「歩みも踊り」という発想は、別にスペノが意図して感じさせようとしてるわけでは無いなと思った。ペースを乱すことなく歩いていた山口さんは、ある一点に着いた途端振り返ってもときた道を複雑に身体を動かしながら戻っていった。僕はそのままついていく。往路で道をただ歩いてきたのは、これから一種のステージとなる「道」を一度確かめておくための時間だったんじゃないだろうか。先に書いたのと同じ言葉を使うと、身体の動きを生み出す環境的な「条件」を観客にも示していたんじゃないかなと思える。そう思うと、往復の「歩み」と「踊り(動き)」は「歩みも踊り」というより、むしろニュートラルな「歩み」に対する「踊り(動き)」として対比されているように感じる。
三班とも同じようなタイミングで会場に戻ってきて演者はそのまま会場のあちこちで動き始めた。会場には水の張ってあるカスケードを中心に、その周りの通路やホール前のエリア、そこから直接繋がっている屋外道、少し内側に突き出たアトリエがあり、一周ぐるっとそのまま使っていた。ステージというより道です。ホームページ参照されたし。マイクラで作ったら楽しそうな綺麗な建物でした。観客は自由に動いて好きな場所から三人の演者を観ていいと言う説明が最初にあって、実際色んなところから色んなところを観れたし、「ふじみきらり見学ツアー」みたいだった。面白かったのが、自分も演者に見られる位置関係で観る時と、遠くの演者を観る時のみえ方が距離感ということ以上に違った。さっきの「当事者性」ということもあると思うけど、何度か演者は僕との位置関係、距離感を「道」あるいは、もともとある「道」上の新しい線分として「動き」の条件に取り込んでいるようにみえた。これは「このままの向きで動いてたらぶつかるから進路を変える」みたいなことにも当てはまるけど、もっと積極的な態度でそうだったということ。全くの勘違いかもしれないけど。
具体的にどんな動きをしていたのかは書き表す技量が無いので書きません。
基本三人の演者はバラバラの場所で動いていて、すれ違ったり、遠くにいる状態で同時に動き出したりしていたのだけど、終盤になって三人が揃って入り乱れるように動く場面があって、迫力があった。全員汗びっしょりになっていてなんてカッコいんだと思う。スペノの作品は観ながら本当に色々と考えが巡るけど、シンプルに演者がカッコいいと手放しで言ってしまえる僕にとっては珍しい魅力を持っている。
スペースノットブランクは今週木曜日から「舞台らしきモニュメント」という別の作品をやってて、僕も観に行く予定なので、気になった人は是非チェックしてみましょう。この異常な制作ペースもスペノのヤバポイント。https://twitter.com/spacenotblank?s=21 スペースノットブランクTwitter