その⑦:抑うつ状態はロジックでは解決できない...!?(前編)
こんにちは!
『自由診療で、対話を重視した心療内科診療を提案するnote』の第7回目になります。
今回は、「抑うつ状態はロジックでは解決できない…!?(前編)」と題しまして、メンタル不調におちいってしまうメカニズムを…
超わかりやすく…
解説してみようと思います。
・とても完璧に育児を行っていたお母さんが、
お子さんが成長して育児負担が減ってきて、少し落ち着いてきたころに…
抑うつ症状を発症する…
・とても忙しいプロジェクトを任されていた課長職の男性が、
プロジェクトが一段落ついて仕事量が減り、少し落ち着いてきたころに…
抑うつ症状を発症する…
・半グレとして…リスクと隣り合わせの毎日をサバイヴしてきた思春期の男性が、医療少年院に入所し、1か月が経過して、そろそろ安全で快適な環境に慣れてきたころに…
抑うつ症状を発症する…
気を張っているときはいくらでもがんばれていたのに…
ひと段落ついて、やっと肩の荷が下りた…
と思ったころに…
なぜか…
体がとてもだるくなり…人に会いたくなくなり…
食欲も性欲も減退し…
引きこもってしまう…
この現象をロジカルに理解するためには…
進化生物学の知識が必要になってきます。
なぜなら、私たちの脳は、身体の臓器の一部であり(フィジカルそのものであり)
長年の進化によって磨き抜かれてきた、遺伝子にとって合理的なフィードバックによって調整されて機能しているため(遺伝子の都合っちゃ都合なんですけどね…)
そのような遺伝子都合による心理メカニズムの理解が必要だからです。
(少ししつこいようですが、遺伝子の奴は自分のことしか考えていないから、生き残りを最優先目標として脳が設計された結果…私たちはいつも不幸を感じてしまうのです。しかし脳にとっては、私たちの不幸は正常な反応…なんですよ…つらい)
まずは前回までの復習ですが…
うつの診断基準って、覚えていますか?
…
…
…
そうです!よく覚えておられました!
詳しくは、記事その③「ステキなうつ病治療ガイドラインの歩き方」をご参照くださいませ。
次に「軽症うつ病」の治療について復習してみましょう。
最新版の日本うつ病学会治療ガイドラインでは「軽症うつ病」の治療として何が推奨されていたでしょうか?
薬物?
休養?
精神療法?
…?
そして、心理教育を行う以外には、
うつ病治療ガイドラインにおいて
「軽症うつ病」に対して…
科学的に…
有効であるとして推奨されていた治療法が…
何かありましたでしょうか?
詳しくは、記事その③「ステキなうつ病治療ガイドラインの歩き方」をご参照くださいませ。
そして最後に…「サバンナ脳」って何だったかについては…
覚えてますか?
そう…
そして、そんなミラクルなあなたの脳がどのような時間の大海原の中で進化してあなたの脳になったかといいますと…
ご覧いただきましたのは、1.5万個の点です。
この点1個1個が、
約30万年前にわたしたちの種(ホモ・サピエンス)が東アフリカに出現して以来の1世代を表しています。
わたしたちの脳の基本システム(知性・情動)は、少なくとも約7万年前(サバンナで狩猟採集生活をしていた頃)からほとんど変化していないことが確実視されておりますので…
この1.5万個の点の世代の中で、私やあなたにとってはごく当たり前である…
車や電気、水道やテレビのある世界に生きたのは何世代でしょうか?
では、コンピューターや携帯電話、飛行機が存在する世界に生きたのは?
では、スマホ、フェイスブック、インターネットがあって当たり前の世界しか経験していない世代は?
あらためて事実をつきつけられますと、そのスケール感に唖然としてしまいますよね…
わたしたち(の脳)は今も…数万年前のサバンナに生きている…
では、本日の主題に入ります。
わたしたちの感情は脳によって作られておりますが、
そのような感情を作り出す脳の部分は、進化生物学的に大きく分けますと、3つのお団子に喩えることができます…
①上のお団子のイラストでいいますと、一番下の緑のお団子は「爬虫類脳」といいまして、最も原始的な祖先(すべての脊椎動物の元になった生物の時代)の脳のシステムがインストールされております。
②真ん中の白いお団子は「哺乳類脳」といいまして、私たちヒトを含めました哺乳類の元祖となった祖先の脳のシステムがインストールされております。
③一番上の赤いお団子は「人間脳(サバンナ脳)」といいまして、私たちにとって、進化生物学的に最先端にアップデートされた機能がインストールされております。
そして…この人間脳の最新版アップデートは約7万年前におこなわれたことがほぼ確実視されております…
で…
つぎに…
さいごに…
この「関連フレーム付け」機能は、人間世界を運営するためには大変便利な機能でして…
たとえばあなたが(紙で作られた)一万円札をおねえさんにプレゼントするとおねえさんはとても喜ぶかと思いますが…
まとめますと…
私たち人間の脳には、これら3つの脳が同居していますが、この3つの脳は、お互いに作用しながら私たち人間を動かしています。
その力関係は、爬虫類脳 > 哺乳類脳 > 人間脳(サバンナ脳) となっておりまして、
爬虫類脳が最も強い意思決定権を握っていると言われています。
そして…
抑うつ症状自体は主に、爬虫類脳と哺乳類脳が…
作り出しているのです…
私たちヒトにとって約7万年前のサバンナでは存在しなかったタイプの「脳にとっての危険(ストレス)」が現代社会には普遍的に存在しているのです…
そのような「脳にとっての危険(ストレス)」とは、
たとえば…
・多忙な日々の予定をうまく調整しなければいけない
・試験勉強が充分にできていない
・仕事の締め切りに間に合わない
・ローンの返済が滞っている
などなど・・・
マクロの視点で俯瞰しますと…ヒトの歴史的には、上記のような事柄は脳にストレスをかけてきた要因ではないのです。
(このようなタイプのストレスが生まれたのは、せいぜい…この数千年くらいの間でしょうか…?)
では、いったい私たちの脳の中では何が起きているのか…!?
人間脳(サバンナ脳)が「わーわー世界は危険だよー」という火災報知器アラームを鳴らしまくる結果…(実際、扁桃体という火災報知器は超敏感に設計されているゆえに、私たちの祖先たちはみな、大型動物に捕食されずに生き残りました…子孫を残すまでは)
爬虫類脳が危険対策システムを発動し続け…(HPA系によって作成されたコルチゾールという名前のステロイドホルモンが分泌されます)
哺乳類脳が抑うつ感情を作り出し…(ハッピーな祖先たちはみな、食べられてしまったんです…ぴえん)
抑うつ感情を継続的に受け取ったサバンナ脳が、「これは世界がとても危険だから、洞窟に…当分の間ひきこもっておれ…ということですな…」と解釈することで…
ひきこもる…という行動が引き起こされる…
ある意味で、
(脳にとって)慢性的なストレスにさらされている現代の環境に生きているヒトが、外に出られなくなって自室に引きこもる…という現象自体は、
3つのお団子が協力して働いている人間の脳が…
ということなんですね。
(抑うつ症状は、脳が正常に機能している証拠である…
ということでしたら、私たちが抑うつ症状をどうにか軽減したいと考えて治療行為を行う際にも、
「(サバンナ脳を野放しにしたまま)病気(抑うつ症状)を治す」という方向性から…
「サバンナ脳を調教する(結果的に…抑うつ症状が軽減する)」という方向性に修正した方が適切なのかもしれません。)
本日もおつかれさまでした!
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