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漫画の技術活用について本気出して考えたら、人間にしかできないことにたどり着いた【面白法人カヤック×ナンバーナイン】

こんにちは、ナンバーナインのころくです。

先日電車に乗ったら、隣に座るスーツ姿の中年男性が、スマホで縦読み漫画(WEBTOON)を楽しんでいました。

すべての漫画を、すべての人に。このミッションの元、2022年からWEBTOONの制作にも取り組んできた私たちにとって、読者層の広がりは嬉しい限りです。

実際に、デジタルコミックの市場はどんどん広がっています。

特にWEBTOONは、2029年までに世界で275億ドル(約4兆3000億円)の市場規模になると言われており、37億ドル(約4900億円)だった2022年の7倍以上に。大きな可能性を感じさせる数字です。
※参照: グローバルウェブトゥーンに関する市場レポート, 2023年-2029年の推移と予測、会社別、地域別、製品別、アプリケーション別の情報

これに合わせて、創作のやり方もどんどん進化しています。

例えば月間販売額が1.2億円を突破したナンバーナインのオリジナルWEBTOON『神血の救世主〜0.00000001%を引き当て最強へ〜』は、いろんな強みを持ったクリエイターが集う制作スタジオ「Studio No.9」から生まれました。

そんな新時代の創作体制をもっと磨き上げていくことを目的に、今年3月には面白法人カヤックさんに1億円を出資していただきました。

「つくる人を増やす」を経営理念とするカヤックさんとのコラボレーションで、どんな未来を作っていきたいのか。

今回はこのテーマで、カヤック代表取締役CTOの貝畑政徳さんと弊社代表の小林琢磨が語った対談をお届けします。

目指すは、漫画界のディズニー

──面白法人カヤックは「何をするかより誰とするか」を大切にしているそうですね。そんな中でナンバーナインへの出資を決めたのは、どんな決め手があったのでしょうか。

貝畑:実際に話してみて「小林さんは必ず何かを成し遂げる人だ」と確信できたのが決め手です。もちろん事業そのものも魅力的で、2022年頃からナンバーナインに注目していました。

カヤックのビジョン「つくる人を増やす」と、デジタル配信サービス「ナンバーナイン」の事業内容の向いている方向が合致していると思ったんです。

それで社内に提携の提案をして、ナンバーナインとつながりのあった社員に小林さんを紹介してもらいました。

──どんな方向性が合致していると感じたのですか?

貝畑:チームで1つのコンテンツを作り、かかわったクリエイター全員に利益が還元される。そんなクリエイターの可能性を引き出す事業に共感しました。

世界規模の大ヒットコンテンツを生み出すにはチームの力が必要で、まさに「つくる人を増やす」必要がある。

そのためには、デジタル配信サービス「ナンバーナイン」のようにクリエイターをサポートし、利益を分配する仕組みづくりが重要だと感じています。

小林:僕も、日本の漫画を世界に届けていくには、チームで作ることが不可欠だと考えています。ただ、会社として、エンジニアやバックオフィスを含めた組織体制にまだまだ課題がある。

そこで、ゲームやプロダクト開発において、エンジニアリングを強みとされてきたカヤックの知見は、WEBTOON制作やIP創出にも応用できると感じました。

スタートアップが資金調達をした場合、多くは金額の大きさが注目されがちですが、今回の資金調達は金額的なインパクト以上の価値を感じています。それは、このようなノウハウを蓄積してこられたカヤックさんから今のナンバーナインに足りないものを補完していただけるということ。これは、1億円という金額では測れない価値です。

──組織体制を整えた先に、ナンバーナインが思い描く野望を教えてください。

小林:漫画業界の総合商社を目指したい。今も昔も、この考えは変わっていません。

自分が漫画好きだからという肩入れもゼロではないですが、日本が世界で勝負できる数少ないコンテンツが漫画なのではないでしょうか。

だからこそ、漫画というIPを自社から創出するのはもちろん、そこに登場するキャラクターグッズや、派生したアニメ・映画など、漫画に関連したコンテンツIP全般を世界に届ける使命を担っていきたいんです。

──小林さんの思う、日本の漫画が世界に勝てる要素は何ですか?

小林:日本の漫画の強みはキャラクターです。もっと言えば、主人公以外のキャラクターが強い。

例えば『呪術廻戦』の主人公は虎杖悠仁(いたどりゆうじ)ですが、他にも圧倒的な人気を誇る五条 悟(ごじょうさとる)というキャラクターが登場します。

『SLAM DUNK』(スラムダンク)でも、主人公の桜木花道より、ライバルの流川 楓に心奪われた読者は少なくないはずです。

このように、主人公以外のキャラクターにも細かな魅力を持たせるのは、日本の漫画の大きな特徴です。

一方、WEBTOONが生まれた韓国では、いわゆる「俺TUEEE(おれつえええ)」と言われる、主人公が周りのキャラクターを倒して活躍するストーリーが一般的です。

日本のように、1つの漫画から複数の人気キャラクターが誕生すると、スピンオフやキャラクターグッズなどを幅広く制作できるため、IPビジネスに向いていると言えます。

それに漫画やキャラクターは、言語の壁を超えて人々に幸せを届けられる。そんな漫画界の「ディズニー」のようなIP創出カンパニーを、ここ日本から作り上げたいと考えています。

「フルカラー」で「毎週連載」の壁

──話題に上がったWEBTOONは、複数のクリエイターが集まる「スタジオ制」で作ることが多いそうですね。従来の漫画づくりとは、どう違うのですか?

小林:ナンバーナインの場合は最低でも、原作、ネーム、線画、着色、背景の5つの工程に分業しています。

もっと細かく言えば、着色も下塗り、本塗り、仕上げなど3工程以上に分けることができます。

漫画を、漫画家1人で作るものではなく、チームで作るものに変化させたのが、WEBTOONです。

──なぜ作る工程が変化したのですか?

小林:WEBTOON業界では、フルカラーの漫画を毎週連載することが求められているからです。

これまでの漫画業界では、週刊連載しても作家に支払われる対価は一定の原稿料のみですが、定期的に単行本が出ることで利益が還元されてきました。

一方、WEBTOONは基本的に雑誌も単行本も作らないため、週刊連載の売り上げが、そのままクリエイターの利益に比例します。

週刊連載を休んでしまうと、純粋に売り上げも下がってしまうため、常にストックを貯めておけるような安定した制作体制が求められるのです。

加えて、WEBTOONはフルカラーが一般的ですので、1話にかかる工数も従来の漫画以上に大きくなってしまいます。

そんなWEBTOONを安定して作り続けるのは、1人の力では到底不可能です。

──だからこそ、スタジオ制をとって分業しているのですね。エンジニアのほか、たくさんのクリエイターが集まるカヤックの組織体制からも、真似できる部分がありそうです。

貝畑:ゲームやデジタルコンテンツの開発も分業といえば分業ですが、実は「完全分業制」だとクオリティの担保が難しい。完全に分業してしまうと、チームの一体感が薄まってしまうからです。

そうならないために、カヤックの開発チームが意識していることは2つあります。

1つ目は「前後左右の作業を理解すること」、2つ目は「全体の流れを理解すること」です。

小林:具体的にどうやっているんですか?

貝畑:エンジニアやデザイナーたちがあえて「隣の業務」にも触れるようにしています。その発展形として、1人で2つの職種を担当することもありますね。

目の前の仕事だけでなく、視野を広げて「自分の仕事が誰の仕事のボトルネックになるのか」「効率を上げるにはどこを変えればいいのか」を考えられるようになれば、作業が遅延しそうになった時に他職種から助っ人を呼ぶなど、チームで最適化することができるのです。

また、職種を超えて扱う技術を統一化していくことも重要です。

CG技術やゲーム開発プラットフォームの「Unity」など、ゲーム開発で使う技術をアニメ制作にも転用するなど、コンテンツのジャンルを超えた技術の共有も可能になります。

小林:分業しながらも「一体感づくり」を徹底しているんですね。

ナンバーナインのWEBTOON制作でも、チーム全員で膝を突き合わせて制作することを大事にしています。今後は職種の枠を超えた新しい分業のノウハウを、カヤックさんから学んでいきたいです。

「創る」は人が、「売る」は技術で

──最近だと、生成AIなどのテクノロジーの活用も、フルカラーの漫画を毎週連載する助けになりそうです。

小林:そうですね。「生成AIはクリエイターの仕事を奪う」と敵対構造で語られることもありますが、本当にそうだろうかという目線で見たほうがいいのかなと僕は思います。法的な問題や課題は山積みですし、議論は慎重に組み立てられるべきなんですけど、生成AIはクリエイターの創作を助けるポテンシャルがあると考えれば、活用の余地はきっとあるはずです。

原作者さんをはじめ、創作の過程にかかわる全ての人が、テクノロジーを使うことで「人間にしかできない仕事」に専念できる。僕たちもそんなふうに技術と向き合っていきたいなと考えています。

──カヤックが蓄積してきたテクノロジー分野の知見は、漫画制作にどう活かせそうですか?

貝畑:「作る」から「売る」まで全ての工程をサポートできると思っています。

特にカヤックが得意だと考えているのは、「作る」の次の「どう売るか」の部分です。

というのも、販売データや広告データを徹底的に集め、解析することで、ヒットの確率や方法がある程度分かるようになってきているからです。

最近うちがたくさん手掛けているハイパーカジュアルゲームであれば、広告のタップ率などから、1ユーザーを獲得するためのコストが分かります。

ゲームを本格的に作り始める前に、はじめに部分だけ作って広告に出すと、タップされる量で新しいゲームの売り上げ規模まである程度予測できるんです。漫画に置き換えると、表紙やタイトルや、最初の数ページへの反応から、読者の反応を予測できるかもしれません。

小林:興味深いやり方ですね。ナンバーナインも、大手出版社と違って「漫画雑誌」という媒体を持っていないからこそ、一つ一つの作品の売り方を工夫してきました。

作家さんからお預かりした作品を、どうプロモーションすれば売れるのか。

その方法として成功したものに、「あくせるちゃん@ナンバーナイン公式漫画紹介者」というXの公式アカウントを使ったプロモーションがあります。作品の1話目を無料で掲載し「続きはこちら」とリンクを貼る形で購入を促す形です。最近では他社さんでもあくせるちゃんのようなアカウントを開設し始めるくらい、漫画の販促として主流になりつつありますね。

あくせるちゃんに関しては、SNSでバズりやすい投稿時間や作品などを分析した結果、今ではフォロワーが16万人を超えていて。作家さんからは「あくせるちゃんに取り上げられたいからナンバーナインに作品を預けたい」と言っていただけるほどに育ってきました。

こうした偶然の出会いを作り出すためのデータ分析は、カヤックさんとこれから協業していきたい部分です。

読む人の感情に寄り添う

──データがどんどん蓄積されて、テクノロジーも進化していく先に、人間の仕事はあるのでしょうか?

貝畑:最後に命運を握るのは、やはりテクノロジーではなく、あくまで「人」である作者や編集者だと思っています。

データとは、ただ集めれば自然と答えが見えてくるものではありません。

どう解釈するかは人によって分かれますし、その結果を踏まえてどんな施策に落とし込むかの選択肢も数え切れないからです。

小林:そうですね。先ほども「生成AIがクリエイターの創作を助ける」と述べたように、クリエイティブにおいても、人間にしかできない仕事は確実に存在します。

──例えばどんな仕事が?

小林:一番は「物語を作ること」です。

今の生成AIなら、60点〜80点程度の平均的な作品を量産するのは、きっと人間より得意でしょう。でも、人の心に残る物語を作るには、人間の力がまだまだ必要だと考えています。

物語の面白さは、キャラクターをデザインするイラストレーターさんの個性だったり、登場人物のセリフ回しだったりで変わってきます。

なので大ヒットした『神血の救世主』の制作でも、主人公以外のキャラクターに読者が肩入れできるよう、途中から意識的にキャラクターの「らしさ」が伝わるようなストーリーを練り込んでいきました。

実際、『神血の救世主』の人気と売り上げがグッと高まったのは、登場人物たちの周辺ストーリーを厚くしてからだったんです。

──まさに日本の漫画の良さを体現したと?

小林:そうですね。ただし、最初から狙ってこういうストーリー展開にするつもりだったかというと、そうでもない。

まず意識したのは、韓国のWEBTOONの流れを汲んだ王道の作品制作です。「韓国流」をそのまま真似るのではなく、本気でWEBTOONならではの魅力を探し抜きました。

そうやって見つけた、ならではの魅力を大事にしながら、徐々に日本の漫画的な良さも出していこうとなって「登場人物みんなに光が当たるストーリー」を意識し始めました。

こういう方針転換を、制作陣みんなで考えることができたというのも、ナンバーナインらしい人肌感のある仕事だったと言えるかもしれません。

クリエイティブでは雑談も大事。非生産的なことを含めて全部がコンテンツづくりだと思っているので。

「Studio No.9」ではなるべく全員が出社して制作に取り組むようにしているのも、こういう雑談から生まれる創作のヒントを重視しているからなんです。

──そのような「Studio No.9」が全力で取り組む「読者の人生を変えるようなコンテンツづくり」は、まだ生成AIにはできないのでしょうか?

小林:まだまだ難しいと思います。

というのも、現時点では生成AIは読者の反応を真に理解することができないからです。

漫画アプリに投稿いただいたコメントを読み込ませることはできても、そのコメントの熱量の高さや、言葉の裏に隠れた想いまで汲み取ることはできません。

人間のクリエイターは、SNSやコメント欄などでの読者リアクションを細かにチェックして作品を練り上げていくため、その差は簡単に埋まるものではないと思います。

──ただコメントを読み込むだけなら、テクノロジーでやれそうですが?

小林:どのユーザーが熱量高くコメントしていて、そうでもないユーザーのコメントとは何が違うのかまでは、現時点では人間じゃないと判断が難しいですよね。

貝畑:私もそう思います。これからの創作活動は、人間と生成AIの差があまり出ない工程は効率化しつつ、キャラクターやストーリーのような部分は人間が作る。そうなっていくのではないでしょうか。

小林:そんな人とテクノロジーとの理想的な分業を、カヤックさんと手を取り合って探していきたいと思っています。

世界で勝負できるIPコンテンツを10、20、30と量産していくのは、人力だけではできませんし。

横読み漫画でも縦読み漫画でも、アニメでもゲームでも、今はまだないコンテンツでもいい。世界一のヒットコンテンツを生み出すために必要であれば、挑戦は厭いません。

貝畑:世界規模のヒットコンテンツ創出は、私個人の野望でもあります。

実現に貢献できるよう、「つくる人を増やす」仕組みづくりに、アクセルを踏む。蓄積してきたカヤックの知見を、惜しみなくナンバーナインに活かす。

この循環を回すことで、2社で共に夢を実現していきます。

編集・構成: ころく@ナンバーナインCXO
取材: 伊藤健吾・井上茉優
執筆: 井上茉優


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