世界の「年金制度」を比較
こんにちは、ラン丸(@sign45917948)です。
はじめに
年金だけでは老後資金が2000万円不足する。
2019年6月初めに発表された金融庁審議会の試算結果は、世間を大きくにぎわせました。
それを受けて、年金制度はそんなに不安な仕組みなの?
もらえる金額は少ないの? と気になった人も多いと思います。
しかし、年金制度は破たんしていないので、鵜呑みにしてはいけません。
そこで今回は、日本の年金制度と他の国の制度もあわせて紹介していきます。
各国では、さまざまな形で公的年金制度を用意しています。
人々の平均寿命が伸びている状況に対し、資金の確保が課題になっているのはどの国も同じです。
そのため、受給開始年齢の繰り下げや、高齢者の就業率の向上といった形で対応を迫られています。
公的年金だけに頼るのが難しいいま、長く働き続けられるライフプランを立てることや、iDeCoなども活用した老後資金の形成を考えることが、将来の不安を軽減することにつながるといえそうですね。
「グローバル年金指数ランキング」とは
「グローバル年金指数ランキング」とは、世界各国の年金制度を横断的に比較し、その優れた点や設計上の問題点など多角的に分析調査したレポートとなっており、毎年このランキングは人事・年金・資産運用コンサルティング等を主ビジネスとするマーサー社より公表されています。
このランキングは、2009年から作成されています。
当初は11カ国のみでしたが、2018年では34か国までその範囲を広げてきました。
これまでの傾向からすると、今後もおそらく対象国は拡大するでしょう。
対象国の地域人口から換算すると、全世界人口の60%以上をカバーするほど巨大な規模となっており、様々な文献や発表等で参照される世界的に注目される重要な指標のひとつとなっています。
日本の年金制度の特徴と課題
2018年の日本の年金制度の総合指数は48.2(過去最高値)で34か国中29位でした。
ランキングでは、低い指数ですが、少し改善傾向に見られます。
マーサー・メルボルン・グローバル年金指数ランキング(2018)
出展:https://www.mercer.co.jp/newsroom/2018-global-pension-index.html
各項目の指数については、十分性(Adequacy)の項目が、48.0(評価D)から54.1(評価C)に上がり最も改善がみられています。
最も低い項目である持続性(Sustainability)も、2017年の26.0から32.4(評価E)に上がりました。
健全性(Integrity)の項目指数は、60.7(評価C+)と一昨年から変化はありませんでした。
この指数向上の背景には、年金制度への加入率の改善が挙げられています。
平成30年5月まで段階的に施行された確定拠出年金法の改正や、iDeCoの普及等によるDC制度の活用があります。
一方、今年マーサーが発表した、「健康で、豊かに、賢く働く」レポートによると、日本人の8割近くが将来の経済状況に対して不安を抱えている、という結果が出ています。
中でも、公的年金の先行きに対する不安をその理由に挙げた割合が、世界全体の平均の約2倍となっており、公的制度に対する心理的な依存がみられています。
日本の制度を更に改善するために可能な対策として、以下の対策が挙げられています。
・家計貯蓄額の増加
・GDPに対する政府債務残高比の引き下げ
・退職給付の年金形式での受給を促す制約の導入
・年金給付額の引き上げに伴う、所得代替率の改善
・平均余命の延びに伴う公的年金制度の支給開始年齢のさらなる引き上げ
日本の年金制度の問題点
まず、日本の年金制度の給付額の低さが挙げられます。
一般的に、国同士の年金額の水準を測る物差しとしては、「所得代替率」を基準に考えるそうです。
「所得代替率」とは、現役世代の年収と年金給付額の比率のことを指しており、引退後に現役時代のどれくらいの収入を受け取れるのかの目安になってきます。
日本の公的年金の所得代替率は現在60%を超える水準にありますが、将来的にはマクロ経済スライドにより調整が行われ、50%程度まで下がることが厚生労働省の財政検証でも示されています。
また、厚生年金保険に加入できない第1号被保険者(自営業者等)は所得代替率はさらに低くなることは確実であり、明らかに老後の年金給付の水準が低いことが指摘されています。
OECDが公表している所得代替率は一定の前提を置いて算定している点には注意が必要です。
①OECDの統計では総所得代替率を使用している点
日本の公的年金における財政検証で用いられている所得代替率は、手取り賃金に対する年金額面の比率を指している
②男性の単身者モデルを使用している点
厚生労働省がモデルケースとして設定している公的年金給付は、被扶養者も含めたモデル世帯を採用している
③私的年金制度は所得代替率に加味されていない点
OECDの統計では日本の所得代替率が約37%という低い水準となっている
日本は年金支給期間が長い
もう一つの問題として挙げられるのが、年金支給期間の長さです。
日本の平均寿命は世界で最も長く男性で81年、女性86年となっており、公的年金の支給開始年齢が65歳であることから、平均で考えても男性は16年間、女性は21年間の給付を受け取ることができます。
世界的に見ると、日本よりも平均寿命が短いにも関わらず、支給開始年齢を高く設定している国も存在し、持続可能な年金制度となるためには必要な対応を早急に実施することが求められています。
年金支給を遅らせて受給額を増やす場合、繰り下げている間、配偶者が受け取ることのできる加給年金が受け取れませんし、仮に繰り下げをしても、本人が亡くなった場合に支給される遺族年金まで増額されるというわけではありません。このあたりは注意しておくことが必要です。
高い水準にある政府債務
日本の大きな問題は、高い水準にある政府債務です。
日本の政府債務はGDP比で246%となっており、世界でもダントツの1位なのは有名な話ですね。
日本の年金制度の改善策
日本の年金制度はどのような改善策を講じればよいのでしょうか。
これまでの問題点を踏まえると、以下のような改善策が考えられています。
・家計貯蓄額の増加
・高齢者の就労機会の延長
・企業年金、個人年金のさらなる拡充
・年金給付額の引き上げに伴う、所得代替率の改善
・平均余命の伸びに伴う公的年金制度の支給開始年齢のさらなる引き上げ
・企業が実施している任意の退職給付制度の一部を、強制的に老後の年金給付とする制度の導入
皮肉な話にはなりますが、これまで日本がすでに実施してきた高年齢者雇用安定法や公的年金の支給開始年齢の引上げなど、同様の施策をさらに実施することが改善策と述べられています。
iDeCoという愛称で知名度は拡大していますが、個人型DCの普及は日に日に進んでいます。
日本の年金制度改革が反映されることで、その評価が高まることが期待されています。
世界的な年金制度における兆候
世界的な共通事項として、年金制度や世界的な兆候としてはどのようなものが生じているかをみていきます。
1.定年後の余命が伸びている
実は、2009年のランキング調査開始時に調査対象国であった11ヶ国全てにおいて、2009年から2015年にかけて、退職後の平均余命は16.6年から18.4年へ延びていることがわかっています。
平均余命は医療技術の発展等に伴い、年々伸び続けており日本が最長国なのは有名な話ですよね。
ただ、一方で世界中においても平均余命は伸び続けており、この5年間で約2年間ほどの伸長があったことがわかります。
この平均余命の伸長が年金制度に与える影響は非常に大きく、財政上の負荷が高まることは必至です。
オーストラリア、ドイツ、日本、シンガポール、英国の5か国では、平均寿命の延びに伴い、公的年金制度の支給開始年齢を引き上げましたが、退職後の平均余命の延びには完全には対応してきれていないのが実情です。
2.高齢期においても労働参加率が増加している
高齢期における労働参加率が増加している点も世界的な流れと言えます。
この高齢者の労働参加率の増加は、経済にも個人に対してもよい影響を与えています。
一般的に、年金制度に加入している期間や、掛金を拠出している期間が長ければ長いほど年金給付額は増加傾向になります。
また、年金制度の財政運営上も負担が減少され、より健全性を高めることができます。
2011年以降の対象国である16か国では、55歳から64歳までの平均労働参加率は、2011年から20の増加が見られ、非常によい影響を与えてきていることが示されています。
高齢者の労働参加率には限界があるものの、労働参加率の改善については世界中で大幅に増加する余地を残しており、これは今後多くの年金制度の持続性を高める鍵となるとレポート内では指摘されている点です。
まとめ
世界の年金制度の中で、日本の年金制度はどう映りましたか。
ランキングの順位だけで、制度の仕組みを語ることは、決してすべきではないことはご理解いただけたかと思います。
日本は世界でも最長寿国であるにも関わらず、他の国と比べて支給開始が早いことや賃金の後払い的性格を持つ退職一時金制度などは日本の特徴とも言えます。
世界的に見ても政府債務の水準は極めて高いように見えてしまっています。そのため、外国から見た日本の状況はとてもまともな財政状況には見えないのかもしれません。この点についても今後は改善すべきだと思います。
ギリシャは国家のデフォルトに直面し、財政緊縮のために年金減額を実施せざるを得なくなりました。
日本の場合は、ギリシャと違い円建てで資産を持っていることから同じような理由でデフォルトにはならないかもしれませんが、この年金制度のランキングを上げるためには給付水準の低さや支給期間の長さ、国家の債務を改善しなければいけないと考えられます。
また、OECDの統計についてはデータが不十分なこともあり、日本の年金制度の現状を十分に反映できていないと言えます。
すでにマクロ経済スライドを導入し、その発動できる環境を整備している現在の日本では、あまり参考とならないレポートとなってしまっている感が否めません。
今後、日本の動向がどう変化するのか、継続してみていきたいですね。
今回は、以上です。
お読みいただきありがとうございました。