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【ライブレポート】ヤなことそっとミュート×我儘ラキア-YSM SIX TOUR in 大阪 ESAKA MUSE 2022.06.19

2022年6月26日に現体制ラストとなるバンドセットワンマンを控えたヤなことそっとミュートが、ワンマン前ラストにして最後の対バンライブとなるツアー大阪公演を開催した。最後の対バン相手に選ばれたのはその大阪のシーンを牽引する西の雄・我儘ラキアである。

遡ること6年前、2016年6月17日、大阪。「世界で一番、後輩のグループ」と自称して、我儘ラキアがステージデビューした。デビュー当初のメンバーは3人、最初のステージは15分であった。
翌18日、東京。東京最凶と謳われたかのBELLRING少女ハートが主催するライブのオープニングアクトとして、ヤなことそっとミュートがお披露目された。こちらも当初は3人、転換込みわずか15分の持ち時間であった。

奇しくも1日違いでお披露目され、西と東それぞれの地でライブアイドルシーンを闘い抜いてきた“同期”の運命は、以後幾度となく交差することとなる。

本稿ではそんな両者の最後の共演となったライブの模様をレポートする。

*MC等はメモを取っていないためあくまで要旨。文中メンバー敬称略

YSM SIX TOUR in 大阪

17日にホーム・心斎橋で、18日にツアー名古屋でそれぞれ6周年記念のライブを終えてきた両グループとそのファン達が続々とESAKA MUSEに集う。場内、VIPチケット入場者が中心となる前方エリアは特にヤナミューのファンが多く集まっているようであるが、「今日のセトリはヤナミューに寄せてきますかね?」といったラキアクルーの会話もちらほらと聞こえてくる。

度々共演を重ねているとはいえ、ホーム地も音楽の系統も異なる両者のファン層はあまり大きくは重なっていないように思う。そういった意味では“ファイナルモード”に入ったヤなことそっとミュート主催のフロアは、ラキアにとってややアウェー寄りであったかもしれない。とはいえ、最後の対バンへと向けた両グループへの期待はフロアが後方まで埋まっていくのと同期して次第に高まっていく。

我儘ラキア

前半

ほぼ定刻、SEと共に我儘ラキアの4人がステージに登場する。
お馴染み「我儘ラキア、始めます。」の宣言と共に、限界まで緊張の高まったフロアに最初に投下されたのは「Ambivalent」。2020年のセルフタイトルEP「WAGAMAMARAKIA」のラストナンバーである(ちなみに、同EPの発売日はヤナミューの「Beyond The Blue」と同日)。続く「Why?」と並んで、星熊南巫のボーカルとMIRIのラップがややダークな色調でライブ序盤を構成していく。

一転して鳴り響いたのは「Leaving」のイントロ。我儘ラキア屈指のフリコピ曲であるこの曲で、どちらのファンなどということは関係なくフロア全員が一体となって盛り上がる。この曲はもともと、メンバー川﨑怜奈の古巣であるNEVE SLIDE DOWNの楽曲。同グループもまた、かつてのシーンを共に駆け抜けた“2016年組”である。
星熊の放つ波動でフロアが一斉に仰反るお馴染みのパートでは、初見の観客を意識してかいつもより丁寧に「皆さん一緒に!」とフリコピを煽る姿も見られた。
《あんたが忘れる私の名前を、いつかまた今度はTVで見ることになるのさ》と「見逃した人」を皮肉る歌詞は、対バンの小さなステージから成長を重ねるアイドルストーリーのカタルシスを表現したものであるし、裏を返せば6年間ラキアを、ヤナミューを見続けてきたフロアへのリスペクトでもあるだろう。

MC

最初のMCでは自身が筋金入りのヤナミューファンとして知られる星熊を中心に、ヤナミューとの出会い、これまでが語られた。
「不良みたいな私たちが天使みたいな女の子達に話しかけたら怖がられると思って。」と自虐と謙遜の入り混じったジョークを交えつつ、フェスでの共演や星熊生誕への出演オファーを通して親交を深めてきたエピソードが披露される。

中でも星熊の、「(間宮)まにさんにam Iとかツキノメが好きで…って伝えたら『あ〜BUBBLEのオタクかぁ〜』って言われた」というエピソードの明らかな“こちら側”っぷりは場内の爆笑を誘い、ラキア初見のヤナミューファンも含めたフロアとの距離をグッと縮めたように思う。

後半

「今日はヤナミューさんと私たち、どちらのライブからも女の子のパワーを受け取って帰ってほしい」という曲振りから披露されたのは「GIRLS」。ガラスの天井を打ち破るため、ラキアの4人がやってきて「女の子」をエンパワメントする。我儘ラキア流ガール・クラッシュともいうべき同楽曲が、この日はヤナミューの4人のために捧げられた。
個人的にはこのシーン、MCの内容も相まって、昨年5月、ヤナミュー現4人体制のお披露目公演にてフィロソフィーのダンスがヤナミューに贈った「ベスト・フォー」を思い出さずにはいられなかった。同じ時代を共に闘い抜いてきた盟友達からの賛辞に胸が熱くなる。
そして続いた「New World」もまた、逆境の中で新しい世界を目指して闘う人のための歌だ。

流麗で技巧的なピアノに川﨑のソロダンスが映える「rain」に続き、前述の「WAGAMAMARAKIA」EPからリードトラック「SURVIVE」の圧倒的なステージで勢いを加速させると、ライブはそのまま終盤へ。

「同じ時代、このアイドルが飽和した時代を、一緒に闘ってきたヤナミュー。そのヤナミューの分も背負ってこれからも頑張っていくので、どうかよろしくお願いします。またライブハウスで!」

そんな感情のこもった星熊のMCから披露されたのは最新曲「GR4VITY G4ME」。《強さも弱さも全部背負いながら》というサビの歌詞が曲振りと呼応して、「ヤナミューの分も背負って進んでいくよ」という強い決意を感じさせる。
同曲公開時のメンバートーク(Twitterスペースにて開催)によれば、この曲は「私たち(ステージに立つアイドル)だからできることを言っているのではなくて、同じ時代を生きている人間として、皆さんに『じゃあ皆さんはどうする?』と語りかけている」曲であるという。

思えば我儘ラキアというグループは、常に同時代を駆け抜けてきた戦友達を見送って、その想いを背負って成長してきた。直接その血を受け継ぐNEVE SLIDE DOWNRHYMEBERRY(MIRIの古巣である)は勿論のこと、uijinWILL-O'といった猛者たちの最後の背中を見送ってきた、その列の中に今日、ヤなことそっとミュートが加わる。

多幸感溢れるイントロ、最後の餞に4人から4人へ贈られたのは「Melody」。優しく包み込むように歌われるメロディが、時代も苦難も闘いも、全てを浄化する。この曲の白眉はなんと言っても落ちサビの海羽凜のパートにある。

いつの間にか 忘れていた
やさしさも ぬくもりも
ほんの少し 時間(とき)をとめて
耳すませば 聞こえるだろ

「Melody」-我儘ラキア

今日この日が終わらなければいいのにと思う心を「時間を止めて」という詞が掬いあげて、我儘ラキアの歌も、ヤなことそっとミュートの歌も、観客の心の中に溶けたメロディはこの先もきっとどこかで聞こえていると、そう伝えてくれたような気がした。

セットリスト全体を通してみると、過去の王道曲やメッセージソングに頼らず、ここ1〜2年のシングルやアルバムのリード曲を中心に構成された攻めの姿勢が窺える。
「I'll never forget 「」」「Letting go」、あるいは「Don't fear a new day」といった別れを歌う曲を用意することもできたであろうし、実際個人的にはそういったメッセージを込めてくるのではないかと予想してもいた。
しかし、序盤のMCで「皆さんに楽しんでもらえるセトリを組んできた」とも語られた通り、「純粋な今の我儘ラキアの音楽」で真正面からヤナミューへの勝負を挑んできてくれた印象のライブであった。それがきっと星熊なりの、そして我儘ラキアなりの“同期”への最大級のリスペクトだったのだろう。

我儘ラキア セットリスト

SE
1. Ambivalent
2. Why?
3. Leaving
-MC-
4. GIRLS
5. New World
6. rain
7. SURVIVE
(星熊MC)
8. GR4VITY G4ME
9. Melody


ヤなことそっとミュート

前半

先手、我儘ラキアが温めに温めた会場に流れる、最後から数えて2度目となる「ヤなことFriday」。星熊南巫をして「天使みたいな女の子たち」と言わしめたメンバーたちが、笑顔で手を振りながらステージに現れる。

ゲームに読書、4人それぞれ思い思いの振り付けから始まる1曲め「BLUE」は、前日の名古屋公演で現体制初披露されたばかりのホットな楽曲だ。栃木公演でお披露目された「see inside」にしてもそうであるが、レパートリーに加わった曲は翌日から惜しげもなく使っていく姿勢は素晴らしい。学業との二足のわらじを履きながら連日の新曲準備をこなすタフな最年少・彩華の振り撒く笑顔に、フロアも満面の笑みで手を振って応える。

間髪入れずに打ち鳴らされるタムの乱打。「morning」ではメンバーとともに走るフリをしたり、手を振ったりと一体感のあるフロアが形成される。恒例である間奏の手拍子パートでは、朗らかな笑顔と共に口パクで「もっと!」と煽るなでしこの姿が印象的であった。

続く「ラング」は伝えたい想いと口で伝える言葉のギャップに葛藤する哲学的な詞が印象的なナンバーである。この日を含めてラスト2公演となり、フロアにはメンバーと言葉を交わすのはもうこの日が最後というファンも多くいた。「借り物の言葉を媒介せずに、伝えたい想いをそのままに伝えられたなら……」という願いは、この日のフロアに渦巻く感情そのものであったかもしれない。

先述した通り現体制ではお披露目されたばかりである初期曲「see inside」に続いて、一転して朗らかな「Gifted」は新しい時代への夜明けを歌う。「Gifted」は安定した中音域のメロディと豊かなコーラスワークで歌唱面を支える南一花のボーカルを存分に楽しめる曲の一つでもある。サビ終わりの《Gift to you!》という詞に合わせてメンバーとファンが互いにビシッと指を差し合う恒例のレスポンスも決まり、フロアの幸福感を増幅させていく。

MC

「もうこれがファイナル前最後」という会場の空気を感じ取ってか、「あまりしんみりしないでください、まぁでもしんみりしちゃうか〜!」と笑う間宮まに
続く「今日が披露するのも もう最後っていう曲もたくさんあるんですけど」という言葉にフロアからは思わず動揺の声も聞かれた。現体制ラストとなる6月26日のバンドセットワンマンは、ヤナミュー史上最大のボリュームとなることが予告されているとはいえ、時間は有限。持ち曲全てを上演するというわけにもいかないのであろう。
そして今日がラストの曲があれば、今日が初披露となる曲もある。本ツアーでは毎公演現体制初披露となる曲がセットリストに組み込まれることが公約されている。

後半

「私たちは以前NINEという9連作をリリースしたんですけれども、そのラスト…」という前振りに、思わずガッツポーズをするファンも。タイトルコールとともに流れだす特徴的なイントロは「記憶とハーモニー」だ。抒情的な詞と温かく柔らかい歌唱に喚起されて、6年間の歩みの走馬灯が流れていく。

そっとそっと耳澄ます
懐かしい不変のメロディー
何十年 何百年だって
ずっと鳴り止まないように

「記憶とハーモニー」-ヤなことそっとミュート

先手のラキアが「Melody」で捧げたメッセージを、今度はヤナミューの4人が自分たちの言葉と音楽で紡いだ。

同じく「NINE」シリーズから洒脱なシャッフルビートに身を任せる「ライカライロ」、夜渡鳥の羽ばたきが印象的な初期曲「ツキノメ」、2ndアルバム「MIRRORS」からわずか2分をあっという間に駆け抜ける「クローサー」と、新旧織り交ぜた構成で終盤をたたみかけていく。特にこの位置に置かれた「ツキノメ」は、“古い曲”が好きな我儘ラキア・星熊へのファンサービス的な意味合いも感じさせた。

この曲をきっかけにヤナミューのファンになったという人も数多くいる代表曲「Lily」は、最初の4人体制から二度のメンバー変遷を経て現在まで歌い継がれてきた、まさに《あの日に続いていく気がして辿った線》である。詞世界を体現するように儚さを帯びた間宮まに、パワフルで伸びのあるなでしこのツインリードを、南一花と彩華のコーラスが上下から彩る。落ちサビのなでしこパートでは、この6年間で何度目であろうか、フロアに燃えるように赤いサイリウムの花が咲いた(画像は2018年のもの)。


続いて披露されたメジャデビュー曲「Afterglow」もまた、メジャーデビュー以前から何年も歌われて続けてきた別れの歌である。

夜空が白んできてる これが最後なんだ
振り返る 永遠の夢を
「また」はない さよならを知った
君はそっと朝露に溶けて
頬をなぞったこの涙
僕は覚めよう この世界を 確かめるように

「Afterglow」-ヤなことそっとミュート

《「また」はない》《これが最後なんだ》と自分自身に言い聞かせるような歌詞。まるで何年も前からこの日の別れのために準備していたかのように、達観した優しくも切ない歌が聴衆に語りかける。ステージ照明とサイリウムが作るオレンジの残光の中で、もうすぐそこまで迫った終わりの時、目覚めの時を誰もが悟っていた。

「BLUE」で始まったこの日のライブの終わりを飾るのは、その青の先へと向かう「beyond the blue.」であった。「Afterglow」のメジャーリリース時のカップリング曲であり、同じ二人の別れを、去っていった側の視点から描いたアンサーソングである。

ああ遠くなる君の背中
私はなぜか何も言えなくて
さよならは心の中でそっと言おう
また会えるまで

「beyond the blue.」-ヤなことそっとミュート

「beyond the blue.」では心の中でしか告げられない「さよなら」を、しかし「Afterglow」の主人公は確かに受け取っていることが歌われている。去っていく彼女たちは何を想っているのか、本当のところは彼女達自身にしか分からない。ただこの日のライブの最後に置かれたこの対となる2曲のパフォーマンスは、彼女たちが、彼女たちを見守ってきたファン達ときちんとお別れができるようにと用意してくれたものであるように感じた。

ヤなことそっとミュート セットリスト

ヤなことFriday
1. BLUE
2. morning
3. ラング
4. see inside
5. Gifted
-MC-
6. 記憶とハーモニー
7. ライカライロ
8. ツキノメ
9. クローサー
10. Lily
11. Afterglow
12. beyond the blue.


終演後は本ツアー恒例、対バンゲストをステージ上に呼び込んでのクロストークと写真撮影。間宮の「何か告知などあればぜひ」という呼びかけに対して、やや戸惑いながら「こんな場で告知なんてできません!」と言い切った星熊の人柄に思わず会場の空気も和む。


名残を惜しむように客席の方を向いたまま、後ろ歩きでステージを去っていくヤナミューの4人。彼女達に、そして私たちファンに残されたステージはあと一度きりだ。

東京と大阪、それぞれの地から、1日違いで6年の歩みを進めてきたヤなことそっとミュートと、我儘ラキア。運命的とも言える最後の共演は、こうして盛況のうちに幕を閉じた。


YSM SIX TOUR in 大阪
2022年6月19日(日)17:00 START
@ 大阪 ESAKA MUSE 
ヤなことそっとミュート
我儘ラキア


ヤなことそっとミュート現体制ラストバンドセットワンマン「YSM SIX TOUR FINAL」は川崎CLUB CITTA'にて6月26日(日)開催。
入場チケットは既に完売しているが、ライブ配信が予定されている。
当日は現4人体制最初で最後の新曲のお披露目も予定。ぜひ最後のステージを目撃してほしい。


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