懊悩タイムトラベルvol.2-1
2000年の秋。
僕はけっこう途方に暮れていた。
ダブりなので高校3年生だったけれど進路が決まっていなかった…というより予定が狂ってしまい白紙になっていた。
その予定は結婚だった。
高校2年生の晩秋。
ひょんなことから僕には彼女っぽい存在ができた。
といってもデートどころか顔も知らない。
知ってるのは名前と声と年齢だけ。
暇つぶしに使っていたチャットで意気投合して電話なんかしてるうちに僕は彼女に惚れてしまい告白してみたら受け入れてくれた…という感じだったから彼女っぽい存在だった。
ほぼ毎晩のように電話をして好きな音楽や映画のことを話したりして距離を埋めていた。
そう、距離があった。
僕は横浜、彼女は札幌。
だから電話が一番、近かった。
いつか会える日が来ると信じながら毎晩、彼女からの連絡を待つために携帯電話を握りしめて今日は何を話そうか…なんて考えていた。
どこからが恋愛か…なんて分からないけど毎日が楽しくなっていたんだから少なくとも僕は彼女に惚れていた。
とはいえ高校生の僕がコンビニに行くノリで札幌に行くことはできないし、
もっと言うと親がけっこううるさくて外泊なんて論外だったから年頃の僕としては煩わしかった…
…と言ってもそんな色めきだったことは皆無だったのでさして困ってはいなかったけど。
そんな話も4つ上の彼女には話をしていた。
だからというわけではないと思うけれど彼女は年末に横浜に来てくれることになった。
この世の春到来(秋だったけど)
もちろん彼女は泊まりで来る。
しかも3泊4日。
これはもう逢えなかった時間を埋めるかのごとく24時間一緒にいるしかない。
…が、親がうるさいわけだ。
1泊くらいなら何とでもなるけど3泊となるとさすがに無理。
ちなみに僕が父親だったら何も言わずにコンドームを1箱手渡して頷いて終わりなんだけど親父は真逆のタイプなのでご法度です。
さて、逢う前に顔が分からないのも何だか変だねという話になって僕らはお互いに写真を送ることになった。
まだ携帯電話にカメラどころかインターネット機能もなかったしコンパクトデジカメもえらく高かったから無難にプリクラというのが当時の主流だった。
今と違って盛ることができなかったので信頼性も高かったような記憶がある。
そんなこんなで僕の手元に彼女からの手紙が届いた。
可愛らしい文字で綴られた手紙に目を通す。
そしてプリクラを取り出した。
綺麗な人だった。
可愛らしい感じの綺麗なお姉さんが楽しそうな笑顔で写っていた。
冴えない僕にはずいぶん不釣り合いなくらい綺麗な人だったから音信不通になったらどうしよう…と不安になったくらいだった。
もちろんそれは杞憂で高校生の純朴さに満ちあふれていた僕を可愛いと表現してくれた。
その日から僕は年末までずーっと浮かれていた。
もともと可愛らしい声の人だと感じていたけど顔が分かるとなおのこと可愛く感じるようになって毎日の電話がより楽しくなったし「デートスポット」を調べるのが日課になっていった。
そしてその日はやってきた。
羽田空港の到着ロビーで彼女を待つ。
緊張のあまり2時間くらい前に着いたことはここだけの秘密。
着いたばかりの顔をしてゲートから出てくる人たちを見ていると僕以外にも恋人を出迎えている人がいて
とても幸せそうな笑顔を浮かべていた。
そうこうしていると彼女が大きなバッグを持って僕の前にやってきた。
当たり前だけどプリクラより綺麗だった。
そして小柄だった。
あまりの喜びに僕は「えへへ」とか「ぬへへ」とかアホみたいな反応ばかりしていたような記憶がある。
羽田からまずは無難なみなとみらいに出て観覧車に乗った。
もちろん言うまでもなくそこでキスをした。
横浜でもメジャーなデートスポットでデートしているというだけで幸せの絶頂だった。
…続く