『理科室まがった』(毎週ショートショートnote)
「理科室まがったとこにいる」
彼女のメモに書かれたとおり理科室の角を曲がったところに
彼女は背中を向けて立っていた。
「どうしたの?」
声をかけても彼女は振り向かない。
「下駄箱でメモを見つけたけど旧校舎に何か用?」
理科室は新校舎の一番端にあり、その角を曲がると
新校舎と旧校舎をつなぐ渡り廊下がある。
旧校舎は老朽化が激しく倒壊の危険があるため中には入れず
先生の話では来月には取り壊されると聞いていた。
彼女は僕の問いかけには答えずゆっくりと前に歩みだしたが
その姿はまるで何かに憑りつかれているようだった。
渡り廊下の先で、普段は鍵が掛かっているはずの
旧校舎の入り口が開いているのが見えた。
彼女はためらうことなく中に入っていった。
僕は彼女を追って旧校舎の中に足を踏み入れた。
日中というのに暗くひんやりとしている。
うしろでガチャリと鍵が掛かる音がしたのと同時に
僕は思いだした。
理科室の先は先週、壁が作られて
曲がることなんて出来ないことを。
(410文字)
<あとがき>
おかしいなぁ。
理科室の角をまがった彼女を追い越した僕が
ここで会ったのは偶然だとばかりに振り返り、
「そういや今日、誕生日だったよね」
って、さも今思い出したように言う
っていう歌詞を書いている
ホントはそんなこと出来ずにいる
高校生の僕って設定で
書いていたはずなんだけどなぁ。