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『沈む寺』(毎週ショートショートnote)

寺が沈む。寺が沈む。
そう言って坊主は山を駆け降りた。
まるで飛ぶかのように。
いや、まるで堕ちるかのように。
山寺は山の頂のひとつ手前の大きな岩に寄り添い
また半分埋もれるようにしてひっそりと佇んでいたが
この長雨に打たれ耐えきることができなかったのか
今朝からゆっくりと沈みだしていた。

寺が沈む。寺が沈む。
坊主は一度も後ろを振り返ることなく
山を駆け降りる。
何も無くなってしまっているのではないかと
怖くて振り返ることができないのだ。

さっきまで降り続いていた雨はとうにやみ
空には薄日が差している。
和尚は無事だろうか?小僧たちは無事だろうか?
寺が沈む。寺が沈む。寺とともに何もかもが沈んでいく。

目の前に峠の茶屋が見えてきた。
「お坊さま、いかがなされた」
店主が坊主に声をかける。
「寺がぁぁ。寺が沈むぅぅ」
そう言って坊主はその場に倒れこんだ。
客のひとりが何ごとかと駆け寄る。
団子をほうばっていた子供が
手にしたその串で山の方を指す。
寺が沈む。


<あとがき>
最近、ストーリーが思い浮かびません。

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