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『ちょっとだけ怖い話』(#ちょっとだけコンテスト)

『ミスト』

炎天下のイベントは大盛況。
メイン会場に向かう大勢の人の流れは
遅々として進まない。
せめて風が吹いていてくれたらな。
友人と愚痴を言いつつも期待に胸を膨らませる。
会場へと続く道は、アーチ状のパイプが等間隔に続き
電飾や色とりどりの装飾が施されているが
日差しを遮るには至らず太陽は容赦なく照りつけている。
とにかく暑い。
さきほど買ったドリンクも清涼感を失っていた。

突然、前方から歓声があがった。
会場へはまだ距離があるはずだがなんだろうと
ちょっと背伸びをすると、
前方から霧のようなものが近づいてきており
やがて俺の頭上にも降り注いた。
「冷た!」
どうやらアーチ状のパイプからミストが出る仕組みに
なっているようで、発生装置が前方にあるんだろう。
近づいてきたミストの帯はさらに後方に向かって
どんどんと伸びていく。
「気持ちい~ぃ!」
俺や友人だけでなく周りの誰もが歓声をあげていた。

しばらくして前方からさらに大きな声が上がる。
しかし、先程の歓声とは異なっている。
「さっきの歓声とは違うよな?」
友人と顔を見合わせた、そのとき。
「痛ッ!」
友人が言うのと俺が言うのが、ほぼ同時だった。
さっきまで冷たくて気持ちいいと思っていたミストが
火を放たれたように熱い。
友人を見ると顔が熱湯をかけたように赤くなり
服にも穴が開いている。
やがて後方からも悲鳴が上がり始めた。
ミストは止むことなく降り続いている。

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