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Photo by
nigihayahi_kaze
『ときめきビザ』(毎週ショートショートnote)
「これを持っていればまた逢えるから」
そういって彼女は僕に一枚の紙をくれた。
「絶対に失くさないで」
そう言われたのに僕は、、、。
またあの日の夢だ。
あれから何年も経つというのに。
夢の中の彼女の顔はおぼろげで
夕日が彼女のシルエットを浮かび上がらせていた。
「これを持っていればまた逢えるから」
その仕草に僕の胸はときめいた。
「絶対に失くさないで」
踏切のカンカンカンという音と
近づいてくる電車の音。
彼女がくるりと背を向けて駆け出す。
電車の急ブレーキの音が聞こえてくるが
僕は間に合わないことを知っている。
あれから夢で何度も聞いた音。
思わず彼女がくれた紙を握りしめる。
僕はあの紙をどこにやったのだろう?
あれから僕は家を出て
仕事を辞めてまた戻ってきた。
こんなものがあったと母が差し出すズボンのポケットから
洗濯してくしゃくしゃの紙くずが出てきた。
「これを持っていればまた逢えるから」
僕はそれを奪い取ると
彼女に逢うためにあの踏切へと駆け出した。
(410文字)
<あとがき>
彼女に逢うためのビザ。
ときめきはあの日のまま。