【幼馴染】ミキ
いやだ。
嫌だ、
嫌だよ、
なんで、わたしが渡すの?
わたしが先に好きになったんだよ。
「レイちゃんから。これ。」
押し付けるようにして手紙を渡すと、周りの目が訝しげに見ている気がして俯いたまま、逃げるようにして教室に戻った。
わたしは、その他大勢の子供だから、レイちゃんのお父さんが長老だから、引かなきゃならないよね。
こんな考えの自分が嫌だ。気持ちを通せない意気地なしだ。
ショウくんが好き。
私たちは幼い頃から一緒だったね。
レイちゃん、ショウくん、ルカくん、わたし。
見ているだけでよかったんだよ。
誰にも知られなくてよかった。
好きになって貰わなくてもいい。
好きって気持ちを持っていたかったんだよ。
私がショウくんを好きって知ってからじゃない?
レイちゃんが、
「私も」
言い出したのは。
レイちゃんの、
意地悪、
意地悪、
意地悪だ。
気持ちまで取らないでいて。
何で手紙を渡してなんて頼むの?
レイちゃんは何でも持っている。同じことをしてもレイちゃんは褒められる。わたしは土俵にさえ上がれない。
「みんな平等なんだよ、お父さんはそう言ってる。ミキちゃんの事もちゃんと見てるって言ってたよ。安心して」
レイちゃんは何も分かってない。
ほんとはレイちゃんを大嫌いでも、大好きと言わなければいけないんだよ。ショウくんも、ルカくんも、私も、レイちゃんが大嫌い。
平等??そんな訳ないのにね。
長老だからって何?
ただ威張り腐っているだけ。
大人達は皆ぺこぺこして馬鹿みたい。
私も、ぺこぺこして馬鹿みたい。
どうして、
どうしてなの?
好きな人に好きと言ってはいけない。
違う人を好きな振りをしよう。
ショウくんじゃない、違う人。
意気地なしな自分が嫌い。
好きな人に好きと言えない自分が嫌いだ。
⌘⌘⌘
あれから、ショウくんとレイちゃんがお付き合いを始めたことを、レイちゃんから聞いた。はじめてのデートは図書館だったんだよね。
2人のお付き合いは中学3年以降も続いていたのかな? わたしは、苦しくて、苦しくて、2人から離れた。群れが変わったから、むかしみたいに会わなくて良くなり、さらに離れていられた。
あれから、5年。
ショウくん、元気でいる?
いつか、
いつか、
何処かで会えたなら、
群れに属さないわたしで許してくれたなら、
また横で歩けるかな?
毎日、毎日、考えてるよ。
会えたなら、どう声をかけようかな。って。
⌘⌘⌘
「ミキちゃん、お疲れさま」
「お先に失礼します」
さぁ!!早番おわり。夕方6時。電車は6時12分発、余裕で間に合う。東出入り口からビルの外に出た。
さむぅ。もう11月の終わりか、来月からのSALE
忙しくなるな、お店の顔作りなおそうか。今日入ったファー付きコートを着せよう。
どこからかギターの音色と歌が聴こえる。
弾き語り??
誰か、してるんだな。
最近は、ミスチル多いな。
朝8時からピンヒールのブーツを履いて立ちっぱなしだから、ちょっとつま先が痛いな、早く電車に乗り座席に座りたい。駅の改札まで30メートル、
やっぱり、弾き語りだ。
同い年くらいの男の子、
!!!!!!
口に手をあてる。
下を向いているけれど、
ショウくん、
ショウくんだ。
えっ?何でいるの??
動揺して、早足になって、
改札口の側のファミマに勢いで入ってしまった。
コピー機の奥、ガラスの向こう、向こうに、
やっぱり、ショウくんだ。
胸が早鐘を打つように、たかなっていく。
今のお店にうつり半年。毎日のように歩く道。
えっ?気付いていなかったの?
今日初めて来ていたの?
あっ!ギター弾く。
手が冷たい。
あったかい飲み物。
ホットドリンクコーナーへ駆け出す。
ホットレモン??
ううん?そんなん男の子は飲まないよ。
おーいお茶?
おじいちゃんじゃないでしょ。
珈琲?
ブラック?ミルク入り?
ショウくんがブラックかミルク入りかも知らない。
間違っていてもいい。
とりあえず早く戻らないと帰っちゃうかも。
そしたら、また、会えない。
ブラックの缶コーヒーを買い走って
ショウくんがいた場所に戻った。
冷たい床にコツンと、温かい缶コーヒーを置く。
彼の目線がギターの弦から、わたしの顔を見る。
弾かれたように、息を大きく吸った。
「ミキちゃん?」
やっと会えた。
今度こそ、意気地なしは、やめる。
「ショウくん、元気だった?」
私たち大人になったよね。なれたよね。
間に合うだろうか?
もう、その他大勢じゃないよね?
人生のページに私が書かれることはなくてもいいだなんて、そんな事ないよ、諦めたくないんだよ。
やっと、やっと、会えた。
今度こそ、わたしは私を嫌いにならない。
好きな気持ちは、ここにあるんだよ。
【才の祭】応募作品です。
【ショウ】