『人生解毒波止場』 - 根本敬
todesking のツイートを見て買った。
“イイ話” についての理解が深まった。(良かった。)
オウムとか小和田邸とか出てくるキーワードが時代を感じさせる。平成初期の世俗の空気をかなり高純度に閉じ込めてあって、これは風俗資料としても貴重では。ポリコレなんて言葉がなくてデタラメにやっていたあの頃の雑然たる俗世間。しかも当時はまだ景気も良くて活気があった。そう、今じゃ見る影もないけど日本ってこうだったんだよなあ…と懐かしく感じてしまう。路上生活をしながらコツコツ貯金して1000万円貯めたホームレスの話とか、サラッと出てくるけど普通にすごい。今じゃ(というかバブル期の日本でもなければ)到底考えられない。
あとは蛭子能収の話が面白かった。
「蛭子はテレビ的にかなり補正されてるけど本当にヤバイ」という話は割と聞こえていたのだけど、その本物の蛭子を忠実に伝えているのだろう。後書きを読むと根本敬には確固たる信念があるようなので信用できる。『荘子』の “渾沌” の話を引き合いに出し、頑迷な小賢しい小市民どもが、独自の宇宙を持って生きている “彼ら” に自分の良識を押し付けるのは愚かなことだと書いている。その通りだ。
僕は多感な時期にユングを読んだせいでシンクロニシティってやつを信じている。“理解している”と言ってもいい。だから根本敬が「因果系宇宙」という言葉で説明しようとしているものはそれなのだとすぐに分かった。「魔性の巨乳の巻」で出てくるケイ太の話とか、知美がプレゼントしたスカーフの話とか。そういうことなのだと読みながらに分かった。最後に引用であれ「真理に時空は無関係である」と看破しているのは中々鋭いなと思った。
全体的な感想として、こうやって市井のちょっとイイ話を集めるフィールドワークは民俗学的(?)にも価値がありそう。柳田国男とまではいかなくても。もう一冊くらい読もうと思う。
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