謝ったら死ぬ病

 自分が間違っていると分かっているのに何故謝れないのか。その理由は(死ぬからではなく)謝罪した瞬間「…ということは、今は自分が怒ってもいい場面なのだ…」と認識し、俄然怒り出すタイプの人間が世間に溢れ返っているからだ。一体どこで覚えてきたのか、謝った瞬間、誠意が足りない、もっと謝れ、辞任しろ、賠償しろと、条件反射で一連の流れが始まる。相手のこのミームスイッチをONにしたくないから、謝れないのである。

 「その指摘は当たらない」「全て適切だった」と、最近の政治家が絶対に謝らなくなったのも同じ理屈だ。世間の人間は政治の中身など全く理解できないので「謝罪したということは何か悪い事をしたのだろう」とか、或いは「強気で発言しているのだから何も非が無いのだろう」とか、旗色を見て条件反射の反応をしているだけだ。賢馬ハンスが数学の問題を解くのと同じように。思考を経ずに反射で動いているだけだ。だから逆に「謝りさえしなければ批判される事もない」のである。なんと愚昧窮まる倒置だろうか。国政がこの有様というのはまず国民のレベルを疑った方が良い。

 ところで日本の接客はレベルが高いなどと言う人をたまに見るのだが、それはこの謝ったら死ぬ病の話と一脈通ずるところがある。突然話が変わっているようだが構造は同じなのである。
 髪色を染めるのは許さない、態度が悪い、雑談するな、座ってレジ打つなんて以ての外。民族性なのか日本の客はとにかくクレーマー体質で、自分が優越的な立場になった途端横柄に振る舞いだす。こんな連中に対処するため完璧にやる必要があっただけだ。接客レベルが高いのだとすれば、それはそのまま “お客様” のレベルの低さの裏返しに他ならない。
 接客も謝罪も相手あってのことだ。一方の態度は必ずその相手と符合しているのである。

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