借りものは、また会う口実のために。
新入社員研修後。
厚い哲学書を何冊も抱えた、隣の席の同期が言った。
「今日はこれから、大学に行くんだよね。卒論のために借りてた本、教授に返さなきゃ。」
私は言う。
「え、今から行くの?めんどくさいね。」
わたしはものを借りるのが苦手だ。
なんか、借りを作るようで。負い目のような感じがして。
あとで何かで、返さないといけない、負債のようなイメージ。
「返さないと」という負担が心の中に残るから、できるだけ借りたくない。
けれど、彼女は言った。
「借りているものがあると、返したくないんだよね。
また会う約束がなくなってしまうから。
また会う口実のために、ずっと返したくない。」
わお。
私には想像のつかないの考え方。
そうか、また会えるきっかけができるんだ。
そう思ったら、
確かに、借りるのも悪くない。
心持ちがふわっと転換した瞬間だった。
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