何一つ偽りはないけれど嘘みたいな私、表現のプリズム
7月末、結婚相談所のシステム上でプロフィールが公開された。事前のアンケートと面談を元に仲人さんがプロフィールを作成、それを確認し、いくつか表現を直してもらった。
私は好きな家事もなければ特別苦手な家事もない。ただ、とにかく面倒くさがりだ。掃除をするのが面倒だから部屋に物は少なく、ベッドとデスクしかない"初期装備の部屋"に住んでいた。料理もデカい鍋に5日分のカレーや煮物を作ったりとにかく冷蔵庫の中身をぶち込んだだけの名もなき料理を大量に作ったりして、平日はそれを毎日食べていた。そういう私の怠惰な生活を、仲人さんは「得意料理はカレーや肉じゃが、丼ものなど家庭料理とのことです。レシピを見れば何でも作れたり、冷蔵庫の残りからレシピを考え出したりする器用さもございます。1週間分など多めに作り置きをされるとのことで、将来お仕事がお忙しい時でも家事との両立が可能かと存じます。」と表現してくれた。何一つ偽りはないけれど嘘みたいな私、表現のプリズム。既に相談所に入ってよかったと思った。こんなプロフィール私じゃ思いつかない。私の怠慢をこんなにポジティブに見せてくれる人がいるなんて!
私はコミュニケーションが淡々としており、特に男性と話すときはそれが如実に現れすぎて「ぶっきらぼう」だと思われがちだが、お酒を飲むと少しだけそれがマシになるので、お酒を飲むデートに誘いやすいプロフィールにしましょうと仲人さんは提案してくれた。また、私の国立大学院卒、国家資格保有、地方公務員という経歴が実際よりも堅く見えるので、それを緩和させたいという意図もあった(上述の通り私は全く堅くない、むしろ怠慢でだらしのない人間なのだ)。
具体的に「お酒を飲んで楽しく過ごすことが好き」と記述したし、プロフィールの"お酒"という欄(飲む/付き合い程度/飲まないの3つから選択)もビール2杯くらいしか飲まないけれど、「飲む」とした。カジュアル写真(スタジオで撮ったプロフィール写真とは別の、普段の自分が分かるような写真)にもビールを持った写真を選んだ。
ところで、プロフィール写真で着用したワンピースはその後一度も着なかった。とにかく黄色いワンピースを買わなければ!と急いで購入したためサイズが少し大きかったのと、写真撮影の日にものすごく汗染みが目立つ素材だということが分かったからだ(汗染みは加工で消してもらった)。加工前の写真の汗染みを見た瞬間から、このワンピースを着て私がお見合いに現れることは絶対にないと分かっていた。なので、普段着ている服でカジュアル写真を撮ってもらうことにした。インスタグラマーの友人に「婚活を始めるからいい感じの写真を撮ってほしい」と連絡し、吉祥寺のカフェをまわり、100枚くらい写真を撮ってもらった。他にも友人と会うたびに「婚活を始めるから写真を撮って」とお願いし、"いい感じの他撮り写真"をストックした。それら全てを仲人さんに送り、私のカジュアル写真は①白いブラウスを着てコーヒーを持つ写真、②水色のTシャツを着てビールを持つ写真、③推しの路上ライブを撮影したものの3枚となった。
③はあまりにも身バレしそうなので載せるのは避けるが、私がサブカルやアイドルが好きなオタクなので、それが分かるものが1枚くらいあった方がいいだろうという仲人さんからのアドバイスにより、決めた。
こうして私のプロフィールは完成した。平坦な毎日を過ごしすぎて忘れていたけれど、そういえば私は日常に新しい刺激が入ることが特別苦手だった。プロフィールが公開された翌日(まだ何ひとつ始まってもいないとき)に「"婚活"が始まっちゃったんだ、"婚活したことない側"にはもう戻れないんだ」と情緒不安定になり仲人さんに長文のLINEを送った。それでも、やっていくしかない。
公開から1週間後、私は3人の男性とお見合いすることとなった。
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夫に「私のどこがいいなと思ってくれて申込みしてくれたの?」と聞いたら「写真とプロフィール文、特にプロフィール文がよかった」と返ってきた。夫はまず、仲人さんから見える私をいいなと思ってくれたのだ。これこそが結婚相談所に入って最もよかったことだと断言できる。