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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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誰もいない世界で隣にいるからね。/Fishing The Abyss

※この記事はゲームストーリーのネタバレを含みます※

 「Fishing The Abyss」というゲームをクリアした。ロボットが一人で釣りをするのを眺めるだけのゲームだ。steamのストアページにも書いてあるが、このゲームはゲームというよりデスクトップアクセサリの方が近い。私は友人と通話しているときや作業をするときにウィンドウの端を少し縮めて、このロボットが釣りをしているのをぼんやりと見ていた。

 そもそもこのゲームを購入したきっかけは制作者さんのSNSを見たからだ。ドット絵が大好き、特に色数が少ないドット絵が大好きな私は釣りをしているロボットのちんまりとした姿に惹かれた。購入してからはパソコンを立ち上げている間は殆どロボットと一緒にいたし、ロボットも釣りをしている間たまに様子を見に来る人間のことを見ていてくれただろう。

 ロボットが魚を釣り続けると竿の性能や籠の大きさ、そして釣り糸が到達可能な深さなどをアップグレードすることができる。当たり前だがロボットからはこの海?の中が見えない。ロボットはきままに釣り糸を垂らして釣れた魚を籠に入れるだけだ。だからロボットは、深度が増すにつれ、異様になっていく海中のことを知らない。そして目玉が沢山ついた魚やロボットよりも大きな魚が釣れてもロボットは驚かない。”そういうもの”として処理しているのか、それとも”魚”をこういうものだと認識しているのかもわからない。ただただロボットはウィンドウの横で釣り糸を垂らし、魚を釣り続けるのだ。
 私がウィンドウから視線を映すと、海の中から巨大な目のようなものがこちらを見ていることがあった。ロボットよりも大きい卵がいくつも連なっていることがあった。建物のような何かの隙間から悍ましい生物が覗いていることがあった。それをロボットは知らない。私だけがこの深淵を見ることができるのだ。私だけが、この海の異様さに気付けているのだ。

 このゲームには一応エンディングというものがある。深度1000Mにある海底、ロボットの目の前にあるこの海の底を見るとエンディングに進むのだ。
 奇妙なこの海に何があるのか。そこで何が待っているのか。私はロボットを見ながらそれを考えていた。釣り糸が深海に潜っていくのを、様々な魚を横目に底へ向かうのを見ていた。ロボットは何も知らずに糸を下ろしていく。私がどれだけこの底を見たいのか知らないまま釣りを続けていく。

 そして、居た。”ロボット”が底で待っていた。

 海底にいたのは、ロボットとよく似たもう一体のロボットだった。うなだれるように海底に座っており、たまに横を通る魚たちからは気にされてもいなかった。
 そしてロボットはロボットを釣ろうとする。海水で腐敗した部品のせいか、それとも深海にかかる負荷のせいか、海中にいたロボットはボロボロとその部品を海に落としていく。魚が横切る。卵たちを横切る。巨大な目を横切る。ロボットは朽ちていく。釣り針はロボットのことを離さないが、ロボットが釣り針を離してしまう。

 釣り針を海面から引き上げる。その針先には何もかかっていない。地上にいるロボットは不思議そうに頭を傾げて、また釣り糸を垂らす。何がこの針にかかっていたのかを知らないまま、ロボットは釣りを続ける。

 この感想を書いている横でもロボットは釣りを続けている。ロボットが何故釣りをしているのか、そして底にいたロボットは何だったのか。そんな説明はされないまま、私はこのロボットと同じ時間を過ごしている。海で拾ったスピーカーから流れる音楽とロボットが魚を釣る音が聞こえる。ロボットにもタイピングの音や私の声が聞こえていたら良いなと思う。
 もし地上にいるロボットが海に落ちてしまったら、そのときは私が釣り糸を垂らそう。君が海底で待ちぼうけなんてしないように、この海の怖さに釣りをやめてしまわないように、海の中を知り尽くした私がロボットを釣り上げて「怖かったでしょ」と笑うんだ。20時間も一緒にいたんだから、もう私たちはそれくらいの仲だよ。


Fishing The Abyss

https://store.steampowered.com/app/3313310/Fishing_The_Abyss/?l=japanese

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