はたらく動物と
はたらくって何だろう?誰かの役に立つってどんなことだろう?
動物が教えてくれる生き方のお手本がここにある。 〜帯文より〜
この本には、農作物被害対策として猿を追い払うモンキードッグとその訓練士。鵜と鵜匠、馬で田畑を耕して暮らす一家や、盲導犬とその主人など、動物と人間をめぐる物語が収められていて、何より動物と暮らす人たちの言葉に含蓄がある。
犬の訓練士はどんな犬でも必ず更生できる、と言い切る。
犬は習慣性の強い動物なので、「これをやってはいけない」ということを何度も何度も根気よく言い聞かせれば、犬はいつか必ずそれをしなくなる。やってはいけないことをやらなかったら、「えらいぞ」と褒める。本気で叱っているか、本気で褒めているか、犬にはすぐ伝わるから「褒めと気合い。このふたつがすべて」だと。
これは犬の訓練だけではなく、何かに立ち向かうときあるいは人と関係をつくっていくとき、成功のカギとなるのは「褒めと気合い」と著者は語っている。
犬の訓練士はこうも続ける。「人に対して強く出る犬ほど、気が弱い」たしかに人間の世界でも同じだと思う。そういう犬にはいろんな人に触ってもらうのがいいそうで、いろんな人になでられると「人間は怖くないんだな」と理解しその犬は暴れなくなるそうです。
「どんな凶暴な犬だって、ちゃんとつきあっていけばどんどんいい子になる。変わらないのは人間だよ。人間の方がよっぽど頑固で扱いにくい。自分の都合ばっかり。いちばん困った生き物だね」と動物の話のはずが、人間の生き方のヒントになるような金言があふれている。
一方、岐阜は長良川のほとりで鵜匠を営む山下さんはリポートに来た著者に向かって「わしのはなしを聞いて、本にするのけ。わしは本は読まん。ぜんぶ鵜から学んどるで。本を書く人間や学者先生なんてもんは、たわけじゃと思うとる」と一蹴。「自然のことも知らねえで、パソコンなんてつかっとるもんはたわけじゃろ」とこちらまで耳が痛くなって来る。
鵜匠は世襲制で現在、岐阜市には鵜匠家が六軒。
鵜匠の家の長男として生まれた山下さんは「他の仕事がやりたいと思ったことはないですか」の質問に
「そんなもん、鵜の家に生まれた人間は鵜をやるいうんが、長良川では昔から当たり前。わしに言わせれりゃ、学校行って、就職して、週に二日も休んでな、60で定年になったら明日から来んでもいいて言われて、それからボサーッとして、老人ホーム入って死んでいくのもな、意味ねえわなぁ。家業を中心にして一生を暮らす。それは自由ではないかもしれなんが、その分いろいろ考えるがね。鵜と生活するだけで、考えることは無限にあるんやて。この世におれる時間は決まっておる。職業選択の自由があったり、旅をする自由があるよりも、決められた場所で決められた仕事をするほうが考えは分散しない。深く考えられる。」と、すごく響いてしまった。
そして最後にこの本を読んで知ったこと。それは視覚と聴覚の両方に障害がある「盲ろう者」の方がガイドヘルパーさんに依頼できるのは朝九時から夕方五時までで、暑い1日が終わってふと一杯飲みに行きたい思ったら盲導犬がいないと叶わないんだそうです。本書の背表紙帯分にある「自由とはビールを飲みに行く夜道」という一行が、心に刺さる本書。
仕事に悩んでいる人にとって、動物たちからの言葉を使わないメッセージは副作用のない良薬になりますよ。