犬へのアレルギー?犬アレルギー用ワクチンの基礎となる科学的ブレークスルー
犬へのアレルギー?犬アレルギー用ワクチンの基礎となる科学的ブレークスルー
TOPICS:アレルギー犬免疫学ポピュラーワクチン
大阪府立大学 2021年12月23日 記
犬アレルギーの概念
このたび、犬アレルギーの原因物質のうち、人に免疫反応を引き起こす部分の分子候補を次々と特定し、犬アレルギーの原因物質のほとんどに対応するワクチン開発の第一歩を踏み出しました。
これまで、犬アレルギーの性質と進行に関する研究は数多く行われてきたが、この情報を利用して、人為的に免疫寛容を誘導し、犬アレルギーを完治させようとする応用研究はほとんどなかった。しかし、このたび研究者らは、犬アレルゲンを構成する分子のうち、まさに「犬アレルギーワクチン」の候補となりうる部分を初めて同定した。
この研究成果は、最近、Federation of European Biochemical Societies誌に発表された。
犬に対するアレルギーは一般的な疾患であり、世界的に増加傾向にある。長年にわたり、科学者たちは7種類の犬アレルゲンを特定することができた。これは、通常は無害であるはずの抗体と結合し、異常に強い免疫反応を引き起こす分子または分子構造である。
これらの7つは、Canis familiaris allergens 1 to 7 (Can f 1-7)と名付けられている。しかし、7つあるとはいえ、犬アレルギーの人の反応の大部分(50~75%)は、たった1つのCan f 1が原因である。これは犬の舌組織、唾液腺、皮膚に存在する。
研究者は、Can f 1のIgEエピトープ、すなわち免疫系によって認識され、免疫反応を刺激または「決定」する抗原の特定部分(エピトープが抗原決定基とも呼ばれる所以)をまだ特定できていない。より具体的には、エピトープとは、免疫反応を誘導するタンパク質の一部を構成する短いアミノ酸配列のことである。
アレルギー反応と免疫寛容のメカニズム
このたび、犬アレルギーのワクチン候補となりうる、犬アレルゲンを構成する分子の一部を初めて特定した。出典:大阪府立大学乾隆一郎教授
エピトープは、免疫系の抗体、B細胞、T細胞の表面にある特定の抗原受容体に結合する。これは、ジグソーパズルのピースの形が、別のパズルのピースの特定の形にフィットするのと同じである。(エピトープに結合する受容体の部分は、パラトープと呼ばれます)。抗体は、免疫グロブリンとも呼ばれ、5つの異なるクラスまたはアイソタイプに分類されます。IgA(免疫グロブリンA)、IgD、IgE、IgG、IgMです。IgEアイソタイプ(哺乳類にのみ存在)は、アレルギーやアレルギー性疾患において重要な役割を担っている。また、IgEアイソタイプのパラトープに適合するパズルのピースとなるIgEエピトープが存在する。
近年、エピトープに着目したワクチンの開発が盛んに行われており、今回は犬アレルギーに対するワクチンである。
アレルギー研究の専門家である大阪府立大学教授で、この研究の筆頭著者である乾隆司氏は、「私たちは、あらゆるワクチンの原理と同様に、少量のエピトープを免疫系に提示し、それに対処できるように訓練したいと考えています」と述べている。"しかし、まずCan f 1のIgEエピトープを特定しなければ、これを行うことはできません。"
そこで研究者達は、X線結晶構造解析(物質中のX線の回折を解析して、その「結晶」構造を特定する)を用いて、Can f 1タンパク質全体の構造を決定しました。
その結果、このタンパク質の折り畳みパターンは、一見すると他の3つのCan fアレルゲンと非常によく似ていることがわかった。しかし、表面の電荷の位置はまったく異なっており、IgEエピトープの有力な候補となる一連の「残基」があることが示唆された。
この基礎データをもとに、さらに実験を行って候補を絞り込む必要があるが、今回の結果は、Can f 1に対する低アレルギー性ワクチン(犬アレルギー用ワクチン)の開発が、我々の手の届くところにあることを示唆している。
このようなエピトープを利用した「低アレルギー性ワクチン」の製造は、犬アレルギーに関して世界初であるだけでなく、あらゆるアレルギー反応に関しても稀有なことである。研究者らの研究が本当に犬アレルギー用ワクチンの開発に利用されれば、その背景にある原理は、さまざまなアレルギーに対してより広く利用される可能性がある。
参考文献 「中辻正敏、杉浦圭介、須田圭介、櫻井道子、姥谷美樹、室屋晴香「犬アレルゲンCan f 1のIgEエピトープの構造に基づく予測 大久保里奈、野口亮、鎌田陽一、福富悠真、石橋修、西村茂則、乾隆、2021年10月26日 、欧州生化学連合.
DOI: 10.1111/febs.16252
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