日本のミュージカルの「未来」を考える
今年の1月、ミュージカル界に衝撃的なニュースが飛び込んだ。
ミュージカル「ナイツテイル-騎士物語-」。
2000年の初演以来、毎年歴史ある帝国劇場のセンターに「Endless Shock」で立ち続けるジャニーズ事務所の堂本光一さんと、2000年に大学生で帝国劇場の人気ミュージカル「エリザベート」のルドルフ役に抜擢され、現在の日本ミュージカル界を牽引するミュージカル界のプリンス・井上芳雄さん。5回に1回くらい井上陽水って誤変換しそうになる。
この2人が、(正式な主演クレジットが誰なのかはよくわかっていないのだが)帝国劇場での新作ミュージカルで共演する、というものだ。
ポスターには「これがミュージカルの未来だ!」と銘打たれた。この作品の話題はジャニーズファン(というかKinKiファン?)とミュージカルファンの間に拡がった。
>ナイツテイルの公式ぺーじはこちら
この解禁されたビジュアルを観て、ミュージカルの未来とはなんなのか、とわたしは思った。
今回はそこについて考えたいと思う。
日本のミュージカル界が抱える「問題」
さて、これを読んでる皆さんは昨年東宝やホリプロの主催で上演されたミュージカルの中に、国産ミュージカルがいくつあると思うだろうか。(※宝塚は国産が多いので除外する)
わたしも正確な数は把握出来ないが、「デスノート THE MUSICAL」「王家の紋章」「Endless SHOCK」「アルジャーノンに花束を」「レディベス」……あれれ、意外とあるな。梅芸作品(アルジャーノンに花束を)とジャニーズ作品(Endless SHOCK)も入ってるけど。
リストアップしてみたら意外と多かったからあれなんだけど、ブロードウェイ等の海外作品と国内で企画制作(音楽や演出に海外スタッフを使う場合含む)されたメイド・イン・ジャパンである作品の数を比べると、圧倒的に海外作品が多い。
作品そのものがコンスタントに再演される人気作品となると、ほぼ海外作品である。
日本は現在、人口が減少していく方向にある。
その状況で、この「世界で戦える作品を擁していない」どころか「海外の作品に頼りきりである」という事実は大きな問題である。
いくら今ミュージカル界が注目を浴びているからといって、将来的に観劇人口が減ることは間違いない。
そんな中、高いライセンス料を払って海外作品を上演するだけでは確実に事業としては回らない。
日本で作品を作って、それを海外で上演し、ライセンス料をもらう。今後の国内の業界発展のためには必要不可欠なのだ。
この辺のようなことは昨年ホリプロの社長もどこかのインタビューで話していた。
海外作品は楽しいけど、国産ミュージカルをもっと発展させなくていいの?と思っていたわたしには、その話がとても響いたのを覚えている。ホリプロの社長の発言は好きじゃないことのが多いけど。
そんなわけで、日本には国産ミュージカルが少なく、基本は海外作品に高いライセンス料を払いながら上演している、という問題があるのである。
逆行した東宝ミュージカル「マリーアントワネット」
東宝は2006年に帝国劇場でミュージカル「マリーアントワネット」を上演した。この作品はフランスが題材ではあるが、原作は遠藤周作の「王妃マリーアントワネット」であり、東宝が「エリザベート」で有名なミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイコンビに制作を依頼したれっきとした日本が企画製作した作品である。
主演は宝塚元トップスターの涼風真世さん、その他当時まだ若かった井上芳雄さん、新妻聖子さん、笹本玲奈さん等これからの日本のミュージカル界を牽引していくであろう俳優が起用された。
そしてこの作品は数年後、ドイツ・韓国・ハンガリーでも上演されることになる。東宝作品がヨーロッパで上演されたのは初だったそうだ。ここまで読むと、先述した「高額なライセンス料」の話を踏まえてとてもいいことではないかと思うのではないだろうか。
今年、「マリーアントワネット」が2007年から実に11年振りに再演する。
この演出はロバート・ヨハンソンが行っており、韓国でEMK主催で上演された韓国版新演出の演出家である。
さて、ミュージカルのライセンスには何パターンかある。
演出から何から何まで、全てそのままやるパターンと、作品のストーリーだけを貸し出して演出はするパターンだ。
東宝と韓国の主催であるEMKの間でどのようなやり取りがあったかは知らないが、どうやら東宝は国産ミュージカルを海外演出版で行なうのだ。
韓国の記事で、東宝がEMKにライセンス料を支払って新演出版を上演する、という内容も見たことがある。
マリーアントワネットは初演時観ていないため、再演の報せはとても嬉しかったが、わたしはこの話を聞いて絶望した。
「国内作品をそうやって潰していくのか」と。
他の人がどの程度このことを考えているのかは知らないが、この出来事は「国産ミュージカルの問題」に対して大きなことだったのではないかと個人的は思う。ちなみにマリーアントワネットは死ぬほど楽しみ。早く観たい。
>マリーアントワネットの公式ページはこちら
「この作品でドーバー海峡を越える」
さて、そんな中、先述した通りホリプロでは国産ミュージカルで海外からライセンス料を受け取る側に、というようなことを目指しているようだ。と、同時にホリプロは「ビリーエリオット」や「メリーポピンズ」など、海外の超大型作品の上演にも力を入れる。
前回の記事「2.5次元を超えた2.5次元ミュージカル『デスノート THE MUSICAL』」でも書いたが、ホリプロは国産ミュージカルとしてデスノートを製作した。
この作品は、日本で演出した栗山民也氏が韓国版2回でも演出を務め、さらにはロシアやその他ヨーロッパでのリーディング公演(立って演技をするのではなく、朗読に近い形で上演すること。トライアウト的なものに使われる。)が決まっているようである。(※脚本のアイヴァン・メンチェル氏のTwitterによる、英語のツイート遡る元気がないので適当に見てみてください)
ホリプロの社長は「何年かかってもこの作品でドーバー海峡を超える」と宣言した。
昨年の日本再演版でも、海外のプロデューサーが多く訪れたそうだ。
この調子で行けば、本当にいつかドーバー海峡を越えるだろう。いつかブロードウェイだって夢じゃないのかもしれない。暗いからどうかな。アメリカはハッピーエンドがお好き。
デスノートは、先の記事からも分かるけれどわたしの推し作品の一つだ。そして、大好きな俳優が出ている作品でもある。
万一、それがウエスト・エンドやブロードウェイで上演されて、好きな俳優たちがその世界初演キャストになればとても幸せだなと思っている。
そして、この秋、黒澤明監督の映画「生きる」をホリプロはミュージカル化する。演出は宮本亜門氏で、主演には市村正親さんと鹿賀丈史さんという日本のミュージカル界のレジェンド達が務める。俳優の市村隼人さんもミュージカルに初挑戦するらしい。
きっとホリプロはこの作品でも世界を目指すのだろう。
ちょこちょこと述べているがホリプロの社長の姿勢に対して否定的な意見は多い。わたしも「そんなこと言わないでくれ」と思うことが多々ある。
けれど、こうやって積極的に国産ミュージカルを製作し、目標を打ち出していくところは、国内のミュージカルの発展に寄与していると感じた。
>ミュージカル「生きる」公式サイトはこちら
日本のミュージカルの未来
東宝のマリーアントワネットの件はともかく、先にあげたナイツテイルはジャニーズ事務所と東宝が手を取り製作するミュージカルだ。
今年のチケットは既に争奪戦で、入手困難は確実である。
Endless SHOCKのように再演も重ねる可能性が高い。
ミュージカルそのものが注目を集めている今、日本発のミュージカルにいよいよ本格的に力を入れる時が来ているのではないだろうか。
2.5次元の界隈で活躍するクリエイターのオリジナルのミュージカルもファンを集めており評価が高いものがある。
短いスパンではなくとも、国産ミュージカルがどんどんブラッシュアップされていき、良作が海外に輸出できるような業界であってほしいとわたしは強く願っている。
チケット代になります