金持ちジュリエット【ショートショートnote杯】
金で役を買ったくせに。
無言の視線が雄弁に語る。
父が経営者、母が大女優。
そんな家庭に生まれたのは、神様。
私の罪なのでしょうか。
血の滲むような努力を重ね、
悲劇のヒロイン、ジュリエットの役を
両親の名を伏せ実力だけで勝ち取ったところで、
陰では「金持ちジュリエット」と噂されている。
舞台の上に仲間はいない。
ファンもいない。
SNSは敵意と悪意の掃き溜めだ。
いいじゃないの。
もっともっと私を憎めばいい。
この悲劇の舞台、ヴェローナは
愛する代わりに憎しみが満ちる街。
傷つけ、血を流し、
誹謗や中傷という言葉の暴力はときに人の命を奪う。
誰が禁じても、決して終わることはない。
人の血の中に流れる、
憎しみという名の消えない毒が
ロミオとジュリエットを悲劇へと駆り立てる。
そう、あなたたちが私を憎めば憎むほど、
私は悲劇のヒロインとして
この世界で光り輝くことができる。
私を憎み蔑むあなたたちは、
舞台の端役。
私が主役の物語は、
既にはじまっているのだから。