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ブルーベリーパイを責めることはできない

ずんずんと階段を降りるとほの暗いバーにたどり着いた。壁面には映画が投影されていた。

トム・ハンクス主演のヒューマンドラマが終わってから始まったらしい、"マイブルーベリーナイツ"は物語の中盤に差し掛かっていた。ノラ・ジョーンズ主演のやつだ。

どうして私は捨てられてしまったんだろう、どうして私じゃだめなんだろう、と行きつけのカフェで静かに落胆するヒロインに、他の売り切れたケーキとおんなじくらい美味しいのに毎晩まるまる売れ残っているブルーベリーパイを見せながら、店員のジェレミーは言う。

So what's wrong with the blueberry pie?
“ブルーベリーパイの何が駄目なんだと思う?”
There's nothing's wrong with the blueberry pie
“ブルーベリーパイが悪いわけじゃないんだ”
It's just people make other choices, you can't blame the blueberry pie.
“ただ別の選択をしている、それだけ。ブルーベリーパイを責めることはできないよ。

始めてこの映画を見たときは失恋をした直後だった。
恋をした人が、私じゃない誰かと二人で海の見える街にいったのだと知った頃だった。
ああ、私はブルーベリーパイかと思うと少し気が楽になった。
売れ残ったブルーベリーパイを閉店後に二人がこっそり食べるシーンにも救われた。

ただ別の選択があっただけだ。
手元にある鮮やかな紫色のパイに「チョコレートケーキになれよ」なんて絶対に言わない人間でありたい。

誰にもブルーベリーパイを責めることはできないのだ。

その晩は、バーにいた誰もが注文していないクリームソーダを飲んで帰宅した。

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