髙岡 成道/髙岡オレンジ園
見た目が悪いのは安心のしるし。30年の歴史を持つ有機農家
■プロフィール
八代工業高校専門学校(現・熊本高等専門学校)を卒業した2011年、東京ガスグループのガス管を埋設する会社に就職。
現場監督などの仕事をしていたが、農作物関連のイベントで上京した父と一緒に消費者と交流をしたことがきっかけとなり、「家業を途絶えさせてはいけない」と、就農への意欲が高まる。
2014年5月、脱サラして自転車で熊本に帰省し、父のもとで就農。小祝政明氏が提唱するBLOF理論を父と一緒に学び始めて以来、アミノ酸の活用やミネラル分豊かな土づくりにこだわり、土壌分析を自分自身で行うようになる。有機JAS認証取得。
2020年に父から経営権を継承する。就農してから3年間で急激に増えたイノシシ対策として、熊本県の若手農家で作る「くまもと農家ハンター」でも活動中。
■農業を職業にした理由
柑橘農家の2代目として生まれ、「いつかは農業を継ぐんだろう」と考えていたが、父は30年前に、慣行栽培から有機農業に切り替えて、農協を脱退したことで味わった苦労を息子には経験させたくないと就農には猛反対。
出荷先で開催された交流会のために上京した父と一緒に、消費者と初めて交流したことがきっかけとなり、父が作るミカンを楽しみに待っている消費者のためにも途絶えさせてはいけないと就農を決意。
また東日本大震災が発生した年に東京で就職したことから、放射能の影響を考えるようになるともに、農薬や化学肥料に頼らない有機JAS栽培に関心を持つようになり、父と一緒にBLOF理論を学び、栽培に取り入れている。
■農業の魅力とは
農業は頑張ったら頑張った分だけ、成果が自分に戻ってきます。会社員ならば、頑張っても評価されなければ報われませんが、農業は努力すればお客さんからの評価として跳ね返ってきます。
父は僕が生まれた32年前に、農協を離れて有機栽培に転向したので、市場出荷ができなくなり、電話帳を片手に営業したり、手紙を書いたりして、お客さんを開拓していきました。有機農業が今ほど浸透していなかった当時は、大変苦労したようです。
現在は産直サイトを利用する子育て世代のお客さんから感謝のコメントもいただいていますし、その子たちが未来のお客になってくれると思うと、やりがいを感じます。
就農した直後から、両親と一緒に販売価格を決めていましたが、肥料や資材費の高騰を差し引いても、売上は増加しています。
有機栽培で作られた柑橘類は、消毒したり、ワックスをかけていないので、見た目は悪いですが、これこそ安全なしるしだとして、生協や首都圏や関西の有機農業系スーパーから高い評価を受けています。
市場出荷している農家に比べたら、消費者の顔が見える分、真摯に向き合おうと常に心がけてます。
■今後の展望
2020年に父から経営権を引き継ぎました。父は現状維持を希望していますが、地域の農家が高齢化している今、地域の農業を守るためにも廃業した農地を買い取ったり、借り受けたりして農地を拡大していきたいと考えています。
規模拡大に伴って生産力もアップするし、その分、販路の拡大が期待できます。柑橘農家は9月のレモンに始まり、秋から冬にかけて収穫期を迎えるので、収穫時期が異なる25品種を育てることで農繁期が一極集中しないように工夫しています。
その分、収入源がなくなる夏場には、売り物にならないミカンを原料に加工を委託しているみかんジュースを販売しています。また、くまもと農業経営塾への参加を通じて、いつかは法人化に挑戦したいと考えています。