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ナチュラリスティック・フェイラシー(Naturalistic Fallacy)
食品表示にメニューする際に「自然由来」「無添加」「オーガニック」といった文言を目にしたとき、自分の健康に良い選択をしているという安心感をおぼえる人も多いでしょう。一方、「人工」「添加物」という表現を見ただけで、無意識にそれを避ける行動をとる人も少なくありません。これは、人が自然なものを善とし、人工的なものを悪または危険とする「自然は善、人工は悪」というイメージに根ざしています。これが「ナチュラリスティック・フェイラシー(Naturalistic Fallacy)」と呼ばれるバイアスです。
ナチュラリスティック・フェイラシーという概念は、哲学者ジョージ・エドワード・ムーア(George Edward Moore)によって1903年に著された『倫理学原理(Principia Ethica)』において提唱されました。ムーアは、自然に基づく価値判断の誤謬を批判し、自然そのものを善悪の基準として扱うことの不合理性を指摘しました。
特に「人工生成の食品や添加物」、そして「人工甘味料」に関する情報発信のなかで、このバイアスがしばしば見られます。人工甘味料の弊害を訴える際、多くの発信者は「人工」という言葉にネガティブなイメージを付加し、それ自体が健康に悪い影響を与えると主張しがちです。しかし、これらの主張は、ナチュラリスティック・フェイラシーに基づいた誤解を助長している可能性が高いです。
インパクト重視の情報発信
健康系YouTuberやブロガーがナチュラリスティック・フェイラシーを助長する要因の一つに、インパクトを重視した情報発信のスタイルがあります。
センセーショナルな話題が注目されやすい:
健康系YouTuberやブロガーは視聴回数を増やし、収益を得る必要があるため、「人工甘味料は安全です」という地味な情報よりも、「人工甘味料が体に与える恐怖の事実!」のようなセンセーショナルなタイトルをつける傾向があります。エビデンスの捉え方:
動物実験や極端な条件で得られた研究結果(例えば、過剰摂取の影響など)を取り上げ、人間にも同じリスクがあると誤解させることがあります。これにより、科学的には安全とされる人工甘味料への不安が必要以上に煽られることがあります。
自然なものは実際に「善」なのか
「自然由来」と聞くと、普通の人は「健康」「安全」「無害」といったポジティブなイメージを抱きます。これは一種の直感的バイアスであり、人類の進化の過程で育まれた一つの機能と考えられます。大事な仕組みを知らずに自然のものを借りて生き延びてきた人類にとって、自然な環境や体験を「善」として捉えるのは明らかに便利な存在意義がありました。
直感は必ずしも現実を反映していません。例えば、自然由来の主要な毒物として、トリカブトの主成分「アコニチン」や、フグに含まれる「テトロドトキシン」が少量でも致命的な結果を与えることは周知の事実です。それに対し、人工的なプロセスで生成された化学物質や添加物は、精密な研究と試験を経て、人体に安全な量が定められているはずです。
人工甘味料についても同様で、多くの規制機関(WHO、FDA、EFSAなど)は適量を守る限り安全であると結論づけています。それにもかかわらず、「人工」という言葉に引きずられてそれを危険視するのは、「ナチュラリスティック・フェイラシー」と言えます。
人工生成の食品への評価
人工生成の食品や添加物に関する評価では、時に誤解を招く情報が含まれることがあります。その中で、「添加物が健康に重大な影響を与える」といった主張が取り上げられることがあります。例えば、「添加物が基準量を超える場合にのみリスクがある」というような条件付きのデータが、あたかも常にリスクが存在するかのように解釈される場合です。このような情報は、科学的な根拠を伝えるための工夫が必要です。
科学的根拠に基づいてリスクを評価し、ナチュラリスティック・フェイラシーに惑わされることなく情報を理解する姿勢が求められます。