物理的暴力と精神的暴力
巷で賑わせている「ウィル・スミス平手打ち事件」
このタイトルを見ない日はないくらいSNSでもニュース番組でも取り上げられていた。
なんだその事件と思われる方のために軽く説明すると
という事件である。
ウィル・スミスの平手打ちだけがやけに目立つ事件だったが、この事件で思ったことは以下の3つだ。
物理的暴力のほうが目立つ
精神的暴力はジョークだからで済んでしまう
いかなる理由であっても物理的暴力は許されないが、精神的暴力も許されるべきではない
物理的暴力のほうが目立つ
そもそも事件のことの発端は「クリス・ロックのジョーク」である。
ジェイダのスキンヘッドはファッションや役作りなんかのためじゃない。
脱毛症という病気の上での処置だ。彼女が好き好んでやった結果ではないことを考えるとそもそもジョークにしていいかは微妙なところである。
そして、このジョークは台本にも書かれていなかったという。ジェイダ本人からしたら驚きもあっただろう。
現場の映像と思われるものもいくつか見たが、現にこのジョークのあとのジェイダは顔が強張っていた。
しかし、そのジョークに激怒したウィル・スミスの物理的暴力のほうが世間では目立ったのだ。
ウィル・スミスの気持ちは痛いほどわかるがどんなに理不尽なことを言われ、心を痛めても物理的暴力は決してあってはいけないというのが世間の反応である。
いかなることがあっても暴力では解決しないしできないし、むしろ悪化する。現にジェイダが傷ついたことよりもウィル・スミスが平手打ちしたことの方が話題だった。
物理的暴力は事件の本質を隠してしまう。
しかし、ただただ我慢しろということだったのかというのもまた理不尽な話である。笑って受け流す時代というのはとっくの昔に終わってるのではないか。
今となっては後の祭りでどういう対応だったら気持ちよく終われたのかはわからないが、やはり物理的暴力では悪化してしまうということがよくわかる事件だ。
精神的暴力はジョークだからで済んでしまう
ツイートやいくつかの記事を読み「アメリカではこういう侮辱的ジョーク文化がある」というものが目についた。
いくつかの記事やツイートから抜粋させてもらうと以下である。
ローストという人の欠点を侮辱するジョークがある
黒人が白人をからかうジョークは問題ない
権力と富がある人、政治家やセレブリティーは、思いきりネタにしてもいい
弱者が強者を笑ってもいい
自分の容姿をいじられることで稼いでいてそれを誇りに思ってる人間は除くが、大勢の前で自分の容姿をいじられ且つそれが病気ならばなおさらタブーだという感覚の私には衝撃的である。
そもそも俳優もセレブも1人の人間である。恵まれてるから笑いのサンドバッグにしてもいいという神経が理解に苦しむ。
そもそも病気を笑うのは面白くもなんともないし、そんなものはジョークでも何でもない。私から言わせてもらえばただの暴力だ。
ウィル・スミスの平手打ちとなんら変わりのない暴力でしかない。
だが、アメリカでは「ジョークであってそういう文化だから、クリス・ロックは悪くない」という声が大きいという。
アメリカの文化と日本の文化の大きな違いで反応の差が出た主な理由だと思う。
いかなる理由であっても物理的暴力は許されないが、精神的暴力も許されるべきではない
結果として、ウィル・スミスはアカデミーを脱会し、クリス・ロックのトークショーのチケットは高騰した。
ウィル・スミスは世間から大きく非難をされたが、この記事が本当であるならば、一番守りたかった相手を救うことができたのだと思う。
個人的な意見を述べればウィル・スミスの平手打ちも許されないし、クリス・ロックのジョークも許されないと思っている。
これで思い出した事件がある。
9浪の末医学部受験失敗し、精神的に追い詰められた娘が母親を殺した事件だ。
殺人なんてもっての外だと思うが、彼女の生活は想像を絶するものである。
入浴中も監視され、自分の意志とは違う道に無理やり進まされ、そのうえ誓約書まで書かされる。受験に落ちれば罵倒され、隠し持っていたスマホを見つけられた際は土下座までさせられる始末だ。
逮捕された時の彼女はすでに31歳である。
スマホをもつことされ許されず、罵倒され続け、逃げるという冷静な選択肢すらどこかに置いてきてしまった彼女が最後にSNSに残した内容が「モンスターを倒した。これで安心だ。」である。
ウィル・スミスの事件と一緒にするわけではないが、私はこの事件を忘れられない。
どんなに精神が蝕まれようとボロ雑巾のよう扱われようとも人を殺すのも暴力をふるうことも決して許されることがないし、至極真っ当なことだと思うし、私自身もそうだと思う。そして、それが正論だと思う。
だが、精神的暴力も決して許してはいけないのではないのか。
誰かを傷つけてまで笑いを提供しなくていいし、自分のストレス発散のために相手を傷つけていいわけじゃない。
それが弱者だろうがセレブだろうが血縁関係だろうが関係ない。どういう人間であってもである。
怒鳴りつけたり大衆の前で笑いものにすることだって立派な暴力だ。
傷けられた相手を傷つけていいとは言わないが、ジェイダが彼の行動を評価しているならばウィル・スミスには同情の余地があってもよかったと思う。
今回の件で、いかなる理由があっても暴力は絶対だめだよと子供に教えているというツイートを見かけるが、ジョークだからと人の容姿を侮辱し嘲笑ってはいけないことも教えていただきたいと心底願う。
物理的暴力と精神的暴力に差などない。
どちらも暴力には変わりない。
そして、人間は言語という武器を持って生きている。
私たちはそのことを決して忘れてはいけないと思う。