心の悩みを抱えて働く
夏から気になっていた「Shrink ―精神科医ヨワイ―」がAmazon Prime Videoで全話公開されたのを機に一気見したのでメモ。
家族に話すと「休みの日くらい、仕事に関係ないことをしたらいいのに」と言われる。別にいつもそういう過ごし方をしているわけではないんだけれどもね。
心の病気の呼び方
テーマになる病気の名前が、第1話がパニック症、第2話が双極症、第3話がパーソナリティ症。このドラマでは「症」で統一されているのが気づきの1つ目だった。いずれも普段「障がい」とついているのを見かけるほうが多い。
アメリカで勉強してきた主人公の弱井先生は、英語のdisorderを元に話すのかもしれないなと思った。障がいはdisabilityだ。
私は多様性を職場で実践している会社員であり、医療や精神保健を勉強したわけではないのだが、精神障がいは1つ以上の心の病による結果と理解した。だから、1つ1つの病気に「障がい」とくっつけるのは重たいのかなと。日頃、自分から人の病名を聞き出すことはないが、もしインテークやリファーラルで記録・連携の必要が出て来たら「症」と表現するようにしようと決めた。
専門職のあり方
弱井先生がきちんと休みを取っている様子が描かれているのはとても良い。診察時間外はフランスパンを数本買いに行き、ハマればラーメンを2週間連続で食べに行くなど、おいしいものを食べるのが元気の素のようだ。開業医だから自分の決めたペースで働けるというのもあるかもしれないけれども、医師も働く人として尊重されないとだ。
精神保健福祉士の岩国さんのフットワークの軽さも良い。デイケアでのロールプレイのお手伝いが上手だったが、どこの所属なんだろう。私の職場にもこの職種のスタッフが2人いるが、内勤が基本になっているのがもったいない。岩国さん並みに関係機関との連携ができるよう、なるべく物理的に外に出てもらおう。
周りからのストップ
このくらいの不調だったらいつものこと。ちょっとくらいの無理は利く。
自分のことは自分が一番理解している。他人に止められる筋合いはない。
障がいがあるかどうかにかかわらず、誰でも言ったこと・聞いたことがあると思う。プレゼンティーイズム(何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態)を容認することになってしまうから、職場で聞くと黄信号だ。
私の職場では、元ひきこもりの人25%、障がいのある人(ほぼ全員が精神)75%に業務委託で働いてもらっている。医療や福祉の力を借りながら心身の状態を整えて暮らす人たちが、活動の1つである仕事で無理なくパフォーマンスを出せるよう環境を作っている。私たちの依頼する業務に1日2〜3時間、週2〜3日程度従事できるようであれば、経験不問だ。
健康面の課題がある人が仕事のときだけ健康体になれるものではない。程度問題とはなるものの、体調が普段より悪かったら休むか早く切り上げるかして、次の稼働日に備えるという取り決めがある。業務遂行能力が下がるとミスが出る。生産性が下がると時間に対してアウトプットが減る。具合の悪い人を駆り出してでも業務を回す場ではないし、別の人にしわ寄せが行くなんて思っていないので、迷惑をかけるとか言わず安心して休んでほしいと伝えている。
加えて、お互いの働く時間を尊重する、必要以上に強い言動で相手を攻撃しないなどの取り決めもある。これらが守られないと、朝早くや夜遅く、また休日でもかまわずスタッフに不穏なメッセージを送ったり、「障がい者いじめだ」など被害者意識を強めるといった事態を招く。頼ってもらうのはよいのだが、スタッフとしては勤務時間内にきちんと時間や判断材料を確保したうえで丁寧に向き合いたい。仕事に関係ないことだと別の機関に相談してもらうほうが適切でもある。メールやSlackで文章を送れると期待が高まるかもしれないが、望む対応がすぐに得られないからと罵られても困る。
「その状態では、仕事をお願いできません」
と宣告するのはなかなかに骨が折れる。不調を伝えると休むように言われて稼ぎが減るので黙っていようという人まで出て来る(雇用だったら傷病休暇など手厚い補償があるところ、私たちの職場はno work no pay)。しかし、その人が正当な報酬を得ながら周りの人と良好な関係を構築し、より良い暮らしができるかを長い目で考えると、線引きと直面は必要である。
受診は自然な選択肢
話をドラマに戻そう。
3話を通して一番大きかったのは、働く人が精神科に通う選択肢が会話の中で自然に出て来ることだと思った。第1話では、職場の同僚が近くの精神科はどこかと検索してくれ、薬袋を見て通院を知った義母が自分も行きたかった頃があると言ってくれた。第2話では、きょうだいが日常的な診察に付き添ってくれて、一大事には恩師が駆けつけて説得してくれた。第3話では、感情の表出に職場の同僚や恋人が根気よく付き合いながら、受診を勧めてくれている。
治療は診察室だけでなく日々の生活の中でも続いていく。不調を知っても大袈裟に心配したり怖がったりせず、そっと背中を押してくれたり、戻って来るのを心待ちにしてくれる人たちの存在は、受診する本人の後ろめたさや焦りを和らげてくれる。
ドラマのスタッフブログで、相談窓口を一覧にしているのが良かった。SNS相談も近年ぐっと増えているから、電話がしんどい人にも一度見てもらいたい。