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人生一度きりの…

私が生まれるよりもずっと前から母親と仲良くしていて、恋愛関係にあった男性がいる。

ちなみにその人は当時から既婚者で、母は世に言う愛人だった。

母が亡くなってからはとくに「ちゃんとご飯食べてるか?」「ガリガリになってないか?」とすごく気にかけてくれた。

母子家庭で父親がいなかった私を人に紹介する時には娘だと言ってくれるような男性だった。

「ここはよくお母さんと来てた場所だよ。」

「昔お母さんと来た時にこういうことがあってね、」

一緒に出掛ける時はほとんど母の話で持ち切りだった。

ある時、泊まりで出掛けることになった。

夜はお酒を飲みながら私が知らなかった母の話を沢山してくれた。

「短命だったけれど、一生懸命に生きたんだよ。」

母がエステ経営をするにあたって、場所と店の権利を買ってくれたのも、死んで何年か経った今でも私が溺愛しているワンコ、あのワンコを買ってくれたのも、ワンコの名前を付けてくれたのもその人だった。

自分が母を援助したことが私の不幸に繋がっているんじゃないか、と後悔しているようだった。

「君は絶対に幸せにならなきゃいけない。やりたいことをやりたくなった時にやればいいよ。別に今の生活を一生続けたっていいんだし。焦らないこと、人を騙さないことだよ。好きなように生きなさい。」と言われた。

嬉しくて泣いちゃった。

それなのにお酒が進み過ぎて向こうに下心が見え始めた。

性的な目で見られてるな、と思った。

他の人と話をしている私にジェラシーを感じていることにも気付いた。

その後もあまりに怖い状況が続いた。

山奥で車通りはない。近くにいた人に声を掛けて市街地まで連れて行ってもらいたかったけれど、みんなお酒飲んでいるからきっと運転出来ないな、と諦めた。

それでもとにかく逃げ出したかった。

110番通報する以外の方法がなかった。

「血縁関係はないが、父親だと思っていた人に性行為を強要されそうだ。」

警察はこんなことでは動いてくれないと思ったけれど、すぐに来てくれた。

「こんなことで警察を呼んだ私はおかしいんでしょうか。」と聞いたら「絶対にそんなことはないです。不安だったね。」と言ってくれた。

安心と、ショックと、申し訳なさで涙が止まらなくなった。

また大切な人との縁を切ってしまった、と。

いや分かるよ。母が亡くなる前は会っていない期間が何年かあったし、小さかった女の子が綺麗に育っていたら意識しちゃうかもしれない。

でも父親が娘を女として見たら、それはもう親子ではないよ。

警察官に「これからは思わせ振りなことはしない方がいいかもしれないですね。」と言われたけれど、そんなことした覚えはないのだ。

今回のことで気付いたことがある。

私は好意を持たれたくない人と会う場合、ほとんど化粧をしなかったり、わざとダサい格好をしたりする。

自分で自分の魅力は分かっているし、男性から好かれることは分かっているから、そういう行動を取っていた。

けれど、そんなことは関係ないのだ。

お風呂に入らない、歯磨きをしない、それでも好きな女のことは好きなのだ。

結局その人は私の奥で母を見ていて、私に母を投影していた。

本当の私を見ている時は心の底から父親だと思いながらも、気が抜けた瞬間に私を通して母を見た。

自分の女だと思い込んで嫉妬をしたのだと思う。

次の日の朝に謝罪文が届いたけれど、もう連絡を取らないということで話は終わった。

警察を呼ぶ前に仲良くなった人たちがいて「本当に良いお父さんだね。自分もああいう大人になりたいです。」というトドメを刺すようなラインが届いて、すごく悲しくなった。

それを伝えることも、もう出来ないんだなぁ。

どれだけ身近にいて信頼していてもこういうことが起きるのだから、人はやっぱり簡単には信じられないよ。

けれど、最悪な結果に終わったのだから、そんな人と関わっていた時間なんて無意味無駄だったね、などという言い方は絶対にされたくない。

少なくとも私はその人に救われて生きてきたのだ。

そもそも泊まりで出掛けることがおかしいと言われるかもしれないけれど、父親と泊まりで出掛けることの何が悪い。そりゃ考えは浅はかかもしれないけれど、信頼している人を疑うようなことはしたくなかったのだ。

みんなもくれぐれもお気を付けて。

身近な人にこそ目を向けて、どんな人かをしっかりと見極めよう。

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