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当たり前は、当たり前じゃない

 水道から嘘みたいに冷たい水が出てきた。2月の朝は、暖かい布団の魔力で、出るのにも一苦労なのに、顔を洗うのにもこんなに苦労させられる。簡単に言ってしまうと辛い。
 特に実家の朝は冷える。そして、僕は久しぶりに実家にいる。一人暮らしで自分のペースで家の温度を調整することに慣れてしまったこの体には、耐えられない。でも、実家の温度管理人は母であり、妹なのだ。その次の序列は猫を挟んで、父で僕。多分、僕より猫の方が暖房のリモコンを押したことがあると思う。
 寒さでこちこちに固まった体を温めるためにリビングのコタツに入る。癒し…。
 ボーッとしていると湯気がもくもくとあがる味噌汁が僕の前に置かれた。
「ご飯は食べるの?」
 小さく頷くと、今度はぴかぴかに光るご飯と彩り鮮やかなおかずが味噌汁のそばに置かれた。
 昔は当たり前だと思っていたけど、寒さを凌いでいるだけで朝食が出てくることは、とてもありがたいことだ。

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