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1秒を大切に思わせてくれるもの

 僕の腕時計が時刻を教えてくれなくなった。日が傾き暑さが和らぐ時間帯なのに、時計は13時10分を指している。時計は機械式の自動巻きなのだが、腕につけて左右に振ったりしても動かない。
 時計の修理は決まった場所で行っている。家から徒歩10分あたりにある町の時計屋さんだ。店内には修理が完了して持ち主の迎えを待っている大きな木製アンティーク時計や壁掛けの鳩時計、そして多くの腕時計。この全てを直したのが店主のおじいさんだ。
 「時を計ることができなくなった時計をどう思う」。おじいさんは僕に聞いてくる。「悲しいです。時計の役割の一つです。アクセサリーにはしたくない」。「そうだな。だから私がいる」。おじいさんは黒い時計見ルーペを片目につけて僕を見る。「君は腕時計が好きだな」。僕は頷く。
 僕にとっての腕時計は、時刻を教えてくれるだけでなく、1秒を大切だと思わせてくれる。早く僕の腕に戻ってきてほしい。

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