連載「十九の夏」【おまけ】
夏樹「さん!」
陽菜子「にー!」
夏樹「いち!」
夏&陽「あけましておめでとう!!」
――陽菜子と夏樹、ふたりは揃って声をあげた。新しい年の始まりとともに。
陽菜子「なっちゃん、いよいよ今年で卒業だよね」
夏樹「うん、四年間なんてあっという間さ」
――そう、今年は夏樹が大学を卒業する年である。あの花火大会からもう四年近くの歳月が経とうとしている。
陽菜子「あたしはあと三年間、大学生! 六年制の薬学部だし、ひとつ後輩だから。うらやましいでしょ?」
夏樹「ううん、もう俺勉強に疲れたから、そうとも感じない」
陽菜子「あはは、ほんとは大学院にも行くつもりだったんでしょ?」
夏樹「ええっ、試しに就職活動してみたら、なんとあのG社から内定来たんだぜ」
――G社とはここ数年で業績を一気に伸ばしている外資系のIT企業のひとつである。
陽菜子「そこだよね。なっちゃんって意外と就活に向いてるんだって思った」
夏樹「G社と大学院、天秤にかけてみたら、やっぱりねっ!」
陽菜子「そもそも大学院、入試に失敗したんだけどねっ!」
夏樹「これもG社との縁があったこそなんだよ」
陽菜子「縁、かぁ。あたしたちも、縁あってだよね」
夏樹「んー、まさか、ひなちゃんが大学まで追っかけてくるとは思わなかったし」
陽菜子「ねぇ……」
夏樹「うんっ?」
陽菜子「三年後、あたしが卒業するときまで待って、くれるよね?」
夏樹「もちろん、もちろん」
陽菜子「他に女作って、浮気なんて……」
夏樹「しない、しない」
陽菜子「しない、じゃなくて、できない、よ」
夏樹「あはは、俺の誠実さ、わかってるじゃん、さすが」
陽菜子「いやいや、なっちゃんの魅力を理解できるのは、あたしぐらいしかいない」
夏樹「そこまで言うか!」
陽菜子「だいたいなっちゃん、野暮ったいし、でもあたしとは二十年来の付き合いなのですから!」
――今の夏樹と陽菜子の関係は。幼馴染みを越えて、また特別な間柄なのである。ストレートにいうなら恋人同士、なのだ。
夏樹「でも、春からさ、この俺もG社社員だぜ。カッコよくね?」
陽菜子「はいはい、いつまで続くかな」
夏樹「三年は待たなきゃいけないね。三年後の約束、果たせなくなったらタイヘン」
陽菜子「うん、タイヘンだよね」
夏樹「四月になったら、社会人と学生という関係になるけど」
陽菜子「あたしも四年目になるから勉強忙しくなるぅ……」
夏樹「大変だよね。残りの半分の大学生活がんばれよー」
陽菜子「てかさ、自分のことも考えて。なっちゃん。卒業試験はほんとに大丈夫だよね?」
夏樹「十中八九大丈夫さ。いざとなれば、教授に土下座するしかない」
陽菜子「あはは、なっちゃんとなれば試験は得意だから」
夏樹「院試失敗した奴にそんな言葉掛けるのか!」
陽菜子「うふふ。社会は学生生活よりもっと厳しいだろうけど。へこたれないでね!」
夏樹「あはは。まぁ、俺も社会に出るの不安といえば不安だけど」
陽菜子「お金もらう立場になるんだからねぇ」
夏樹「まぁ、いろいろあるけど、来年もよろしくな!」
陽菜子「ああ、はい、来年もよろしくお願いします。来年も、そう来年もね」
夏樹「あ、もう今年だ! 今年もよろしく!」
陽菜子「うふふ。改めて今年もよろしく。そして来年も再来年もずっと、ね」
――三年後、陽菜子の卒業とともにある約束をしているこのふたり。いつまでも仲良く、お幸せに、である。
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