建築に於ける「重層」
白ごはんと焼き海苔はそれぞれ単体ではその各々の味を噛み締めるに留まる
だが、この二つを重ね合わさて食べたならそこに味の変化が起きる
さらにここにお醤油を一滴垂らしたら…
同様に、異なる空間をいくつもいくつも重ね合わせると
互いの化学反応によってそこには違った意味を持つ空間が偶発する
原広司は空間構造の重要な一つとして「多層構造」を挙げている
試しに今あなたのいる部屋を見回してみて欲しい
おそらく大方の人は、「この部屋だけしか見えないけど」ということだと想像できる
それは「白ゴハンしかないよ!」と同じことである
「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声 松尾芭蕉」
この有名な俳句から分かるように、特に我々日本の文化は古来から「滲みる」を善としている
静寂の空間に横たわる厳然な岩、そしてそこに染みる蝉の麗しい声
これと同様に日本の住居は境界が曖昧である
完全に区画することが少なく、縁側、ふすま、障子などなど境界をボヤかすことで幾重もの層を重ね合わせる
幾重の空間を同時に居合わせることで我々が想像できなかったような風景が現れる
例えば、今僕が座っているイスから
右側には夕焼け雲のかかった庭、左側には坪庭を通してその奥に浴室、後には細長い植栽の生えた庭、上部には月の覗く吹き抜け、というような複数の場所を体験できる場所だったとしたら?
それは、自分が「今ここで」居間に居ながらも同時に、夕焼けに溶けてしまうことができ、月にも届き、浴室に居る家族とも視線の中でコミュニケーションができるような仕組みになる
これらはどれも、複数の風景を同時に透かして見るということである
例えば建築空間を造る時、頻繁にガラスを使ったとしたら?
ガラスは透明な性質を持っているので、「ここの場所」と「あっちの場所」を一緒に味合わせてくれることができる
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