UNISON SQUARE GARDEN TOUR2024「20th BEST MACHINE」 グッズデザインによせて
武道館に続き、UNISON SQUARE GARDENの20周年ツアー「20th BEST MACHINE」のグッズデザインを担当させていただきました。
再び登板させてもらえて光栄です。
せっかくなのでデザインについて、ここに個人的な思いを記しておきたいと思います。
今回、デザインのモチーフとなる楽曲は、先日発売されたベストアルバム『SUB MACHINE, BEST MACHINE』に収録された既発シングル曲の中から好きなものを選ばせていただけたので、はじめは「我々throwcurveがユニゾンと頻繁に対バンしていた初期の頃の楽曲やってみっか」という思いもよぎったのだけど、結果的には比較的最近に発表された『カオスが極まる』を選択しました。
理由は、曲がめちゃくちゃかっこよくて好きだからです。
という大前提がまずありつつ、「カオス」というお題での表現に挑戦してみたいという気持ちが強かったこともあり、こちらに決めました。
どれだけの人がピンと来るかは分からないのですが、今回のデザインモチーフにはカオス状態を数式を用いて表した『ロジスティック写像』と呼ばれるグラフの要素を取り入れています。
「規則的な動きを示していた値が、ある地点を境に唐突に複雑な振る舞いをみせる。ただしそれはランダムではなく、法則性を持っている。ただ、その法則が無限に存在するだけで。」
…というのが、めちゃくちゃざっくり「カオス状態」を説明したもの(だと自分は認識してます)。
ロジスティック写像図において、グラフを左から右に辿るほどカオス状態は「極まって」いき、ほとんど塗りつぶされているかと思えるほど難解に入り組みます。しかし、それも細かい部分を拡大してみると、秩序ある美しい曲線の無数の連なりであることがわかります。
このような状態を、音楽で表現したらどうなるだろう?と、カオス的なものに憧れるミュージシャンは少なくありません。カオスにはロマンがあります。
かくいう自分もthrowcurveというバンドにおいて、今までリハーサルスタジオで何度「ここはカオスなカンジで」などと口にしながら、ひたすらしっちゃかめっちゃかにギターを掻き鳴らしたか分かりません。
さらに言えば、実は20年近く前にthrowcurveのフライヤーデザインにも、このロジスティック写像のグラフのモチーフを使ったことが一度あるのです(※世界中で5人くらい覚えているかもしれない)。
ただ、このグラフは決してパッと見で「映える」図とはいえないので、そのときのデザインは今ひとつな仕上がりでした。
そんなことを不意に思い出し、今回もう一度あのモチーフを使ったデザインに挑戦してみたい、と思い立ったのが、制作に至った動機のひとつであります。
さて、先ほど「バンドマンはカオスに憧れる」と書きましたが、ユニゾンの3人がスタジオでやはり「カオスにやろうぜ!」などと話しているのかどうかは、自分は知る由もありません。勝手なイメージですが、どちらかというと安直にしっちゃかめっちゃか「カオスごっこ」をするような真似はせず、もっと緻密で先鋭的な音の奏で方をしている気がします。
ただ、それじゃユニゾンにカオスのイメージはないか?と考えると、めちゃくちゃカオスなバンドのような気もします。
それも、単にカオスにロマンに抱いているという意味ではなく、バンドとしてある一定のラインまで秩序を保ち、アンサンブルを紡いでいった結果、どこかの地点で一気に複雑な振る舞いをみせるような緊張感と予測不可能性。そういう魅力をもちあわせた、極端に言えば存在そのものにカオスの匂いがするようなバンドだと、自分は勝手に感じています。
そんな解釈を投影しながら、今回のデザインを作りました。
もうひとつのキーワードである「アリアドネの糸」。ギリシャ神話においては本来、救うべき相手に道を指し示すため差し出された糸です。その糸を手繰りあったことで複雑に絡み合い、カオスを描いてしまうという、まさに「これのどこがアリアドネの糸だ!」と叫びたくなるような極まり状態もイメージしてみました。
長くなりました。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
最後になりますが、ひとつだけ念頭に置いていただきたいことがあります。
今回のこのカオスにまつわる文章、我ながら「賢そうなことを書いたな」と思ってますが、一点大きな落とし穴があることを告白します。
それは、わたくしがゴリッゴリの文系であるということです。
理系の素養はほぼゼロに近いです。
高校の頃、数学の試験で0点取ったことあります(ガチで)。
そのため今回デザインするにあたり、カオス理論やロジスティック写像、ファイゲンバウム定数などについて見識を深めるため、さまざまな記事に目を通し学ぼうと試みてみましたが、ほぼほぼ意味が分かりませんでした!!
ですので、最終的なデザインは「かっこよさ重視」で仕上げております。
結局私の中ではカオスはロマンの域を出ていないのです。
この記事をご覧の方の中に理系の方、とくにカオス理論の専門家がいらっしゃった場合、デザイン内容に学術的つっこみどころが見つかるかもしれません。
そのときはどうか「ナカムラ極まったんだな」と、そっと目を瞑っていただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
(完)
あとがき
このnoteを更新するのも半年以上ぶりになってしまった。
なぜこんなに筆不精になったかというと、約1年前にこのnoteで自ら「throwcurveの全曲セルフライナーノーツを書く」と宣言してしまった手前、それを書き進めないことには他の記事を更新するのがなんとなく躊躇われる、という強迫観念に囚われまくっているからである。
もちろん書き進めたい気持ちはあるのだが、ここでちょっとした問題が生じている。昨年7月時点では「throwcurveという“過去のバンド”をアーカイブする」という意図で発案したこの企画。ところがその後、throwcurveは自分が想定していた以上に動き出してしまった。もう「過去のバンド」ではなくなり、アーカイブするより先に今後のタスクやスケジュールを決めなければ、という状況になった。
また、ナカムラ個人の回想で記事を書くのが大前提であるとはいえ、バンドメンバー4人で再び集まるようになったことで、自分の記憶の抜けや事実誤認などが結構あることに気付かされた。こうなると無責任に思い出を脚色してただ面白おかしく書く、というわけにもいかない。
そんなことを悶々と考えているうちに1ヶ月、また1ヶ月と過ぎていったわけだが、とはいえこのnoteはthrowcurveの公式メディアというわけではない。あくまでナカムラ個人のものだ。それに、昨今のSNSの状況を見るに、改めて自分は発信場所としてnoteをもう少し活用した方がいいのではないか、とも最近よく考える。
というわけで、一旦いろいろな経緯はさておき、throwcurveのことから自分の仕事のこと、趣味のことなどに至るまで、もうちょっと制限を設けずにnoteに書いていこうと思い直し、今回もここに記事を投稿することにしました。
いったい誰に向けて何を断っているのか自分でもよく分からないが、どうかひとつ改めて今後ともお付き合いのほどよろしくお願いします。
ナカムラ