SNS時代の美術鑑賞『クリスチャン・ボルタンスキー ─ Lifetime 国立国際美術館』

 ※過去の文を編集して転載

 国立国際美術館にて『クリスチャン・ボルタンスキー ─ Lifetime』を見てきた。

 ボルタンスキーの作品は、直島(香川県)に常設作品としてある「心臓のアーカイブ」や、2016年に東京都庭園美術館で個展が開催されるなど、たびたび見ることができるが、今回の展示は過去最大規模となる回顧展。

 最近ではTwitterやInstagramの普及によって、世界中の美術館やギャラリーが独自のアカウントを持ち、展示内容を発信しているのも珍しくない。日本ではまだ撮影禁止の場所も多くあるが、一部撮影可能エリアを設けるなど、SNSの時代において広告手段を模索しているのを感じ取れる。そんな中「Lifetime」では展示空間の半分を撮影可能エリアにしていた。会場に入る際に配られたパンフレットに撮影可能場所を記すなど工夫されており、初めて美術館に来る人でも気軽に写真撮影ができるようにされていた。

 ただ、撮影可能エリアが増えるほど、作品の鑑賞を妨げる可能性があるとわかった。老若男女問わず多くの人が、作品の前に立ち作品と自分を写して撮っており、特に若い人は色々ポーズを変えながら、写真を友達同士で数十分撮り合っていた。アートの分野では、メディアアートとして扱われ視覚効果が強いチームラボの作品などは、Instagram上で「インスタ映え」的に撮影されることも多いが、ボルタンスキーの作品がここまでSNSのために消費されるとは思わなかった。事実、「#(ハッシュタグ)ボルタンスキー」などと検索すれば、多くの展示写真、カメラに目線を向けてポーズをとる若者の姿を見ることができる。

 SNSの時代において、ネットで拡散されることは企業にとって重要な要素となるのだろう。が、拡散され、撮影場所を求める来場者が増えることによって、作品の鑑賞の妨げになることは本末転倒にも思える。実際、パンフレットに目を通さず、スマホ画面ばかり気にしている人は多かった。

 これを見た時「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」で楽しそうに記念写真を撮る人々を思い出した。知ってか知らぬかそのもののコンセプトは重要ではなく、表層のみがネット上で拡散されていく。作品の前で長時間写真撮影をしているため必然的に作品鑑賞時にはポーズを決めた人が視界に入る。撮影される若い人と無数の衣服が吊るされている作品「保存室(カナダ)」の組み合わせは、自分には古着屋の一風景にしか見えなくなってしまった。

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