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「秋景冬景山水図」に魅せられて

 京都国立博物館で開催中の「特別展 京に生きる文化 茶の湯」へ行ってきました。北宗の徽宗皇帝が描いたと伝わる国宝「桃鳩図」が公開される、わずか4日間を狙って。

 「桃鳩図」はタイトル通り、咲き誇る桃の枝にとまる1羽の鳩を描いたもの。桃の花は若干色が褪せているものの馥郁としており、目をクリクリさせた鳩は、胸のあたりがふっくらとして、羽根の手触りまで感じられるよう。古くは足利義満が、近代では井上馨が所蔵したという名品。わずかな展示期間に駆け付けた甲斐のある一枚でした。ただそれ以上に惹きつけられたのは、隣に展示されていた「秋景冬景山水図」だったのです。
 
 こちらも同じく徽宗皇帝の筆と伝わる国宝。「桃鳩図」同様、足利義満が所蔵した東山御物で、現在は金地院が所蔵。縦128.2×横55.2 cmという結構な大きさで、秋と冬の山水がそれぞれ描かれています。秋景には崖近くの木の根元にもたれかかり、ぼんやりと空を見上げる高士が、冬景には崖の脇の道でふと立ち止まる高士がいます。
 
 松の枝ぶり、竹のしなり具合、節の感じ、笹に積もるかすかに雪、高士の衣の柔らかな風合、高士の持つ杖の線のゆるぎなさ。・・・なんという端正な描き方。うますぎます。秋景の高士が眺める先には、2羽の鳥が飛ぶ姿がかすかに確認できます。そして冬景の高士の歩みを止めたのは、その鳴き声だったのでしょうか、視線の先には猿がいます。ほとんどが余白の画面から伝わってくる、山奥の静けさとすこし湿った空気感。土のにおいまで漂ってくるかのようです。

 こんなにうまい絵が、あったんだ・・・。
 
と、しばらく絵の前から離れられず、眺め入っておりました。見れば見るほど描写の巧みさに気付かされ、見飽きることがありません。元々は春夏秋冬の4幅だったそうですが、春景は早くに紛失してしまったそう。ああ、惜しい。いったいどんな春景が描かれていたのでしょうか。夏景は山梨の久遠寺が所有し、現在は東京国立博物館に寄託されているようです。こちらもいつかぜひ見たいもの。

 徽宗皇帝が描いたものではない可能性が高いようですが、そんなことはどうでもいいと思えました。だってあまりにも素晴らしく、すっかり魅せられてしまったんですから。足利義満さんも、珍しくて価値が高いというだけでなく、本当にこの絵を気に入って所蔵したのだとしたら、うれしい限りです。確かな描写力と豊かな表現力に引き込まれ、今日はこの絵に出会えて本当によかったと、しみじみ感じることができました。

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