カネコアヤノにまた会いたい。
*ネタバレあり注意!
カネコアヤノに会いに行った。一方的にそう思って行った。
上田シティに向かう車中ではモンゴル人のバンドThe Huを聴いていた。メタルなのに牧歌的な味わいのある不思議な感覚を持った。車を海野町パーキングに停め、「本と茶NABO」に行って、坂口恭平の本を購入。それを読みながらカネコアヤノの物販に並ぶ、一番乗り。30分後に先頭のままモバイルバッテリーを買えた。良かった。本当はロンTもハンカチも欲しかったが金欠。モバイルバッテリーですらも買ってはいけない今月の財布状況だったわけで、普段はしないカード払いをして手に入れた。そんな現実と逃避のなかを浮遊。そういえば立冬を過ぎたのにこの日は冬っぽさが感じられなかった。カネコアヤノ「燦々」パーカーで過ごせたし。らしくない、冬。再び「NABO」で茶を飲む。書くジャーナリングをしたかったのに痛恨のペンケースの入れ忘れで、手書きは出来ず、スマホに書いた。
カネコアヤノを待っていた。そうやって待っていた。上田映劇で待ち合わせていた。開演15分前に会場に滑り込む。ドリンクはコカコーラ・ゼロをゲットしたが、トイレに行きたくなって集中できないのも嫌だし、実際に席を立たざるを得なくなる事態は避けたかったから口にしなかった。劇場内に入ると意外とこじんまりとしていた。一度フィッシュマンズの映画を見に来たが、あの時はもっと広く感じた。座席は前から5列目のE列。ど真ん中の位置だった。座席に関しては運がないので諦めていたが、あまりの良席に震える。この距離でカネコアヤノに会えるのか。埋まりつつある場内は控えめに賑やかでスマホを見ている人、カネコアヤノのいないステージを傍観している人、連れと喋っている人など様々であった。客層はわりと高いのかな?20代後半から30代前半の人たちが目についた。おじさんは見る限りわたししかいなかった。女性も多かった。同性に好かれるなんて素敵だ、カネコアヤノ。
18時00分をちょっと過ぎた頃だろうか、客電が落ち、薄い暗闇の中、カネコアヤノがやって来た。会えた。みんなで会いにやって来たんだ。やさしい拍手で出迎える。椅子に座り、チューニングをして飲み物を口にし、カネコアヤノは歌い出す。なのにわたしには現実感がなくて、集中力が散漫だった。開場前から待たなかったせいだ。準備が整わないままライブが始まってしまったのだ。ここは非現実、その心構えをしておかなければならなかったんだ、後悔。それで余計なことばかりが頭を過る。先日の仕事で取材の際にある商品の写真を撮り忘れたことに気づく。クレジットカード使っちゃったなと罪悪感が甦る。わたしが絶叫朗読でこのステージに立ててたらどんなにいいだろうと空想したり、カネコアヤノまでの距離が近くて本当か?と幻を見ているような気分にもなったり。救いだったのはカネコアヤノの使用するギターが使い古されていて素敵だなと思ったことくらいか。そんなわけでカネコアヤノを好きになったきっかけの「祝日」でさえも雑念のなか、聴くほかなかった。しかし、同時にその伸びやかで力強い歌声に魅了される。「抱擁」の緩急ある歌唱に痺れる。わたしの好きな曲、ベスト1と2をやってくれて満足な序盤のわたし。もう至福だった。集中力を欠いたこと以外を除いては。
薄暗いライティングが印象的だった。白いドレスを着たカネコアヤノ。顔に影が映ってその陰影も美しい。アコースティックギターが2本とエレキギターが1本。銀色のタンブラーや譜面台が目に入る。大きなシェードランプが目を引く。照明が雰囲気のある空間を演出していて、裏方さんの存在を意識する。曲が終わるたびに恥ずかしそうな様子でペコリと頭を下げていたカネコアヤノ、パチパチと控えめに拍手する観客さんたち(わたし含む)。そんなお淑やかさにカネコアヤノらしさとそのファンらしさを感じる。冒頭は丁寧に歌っていたが、徐々にアドレナリンが出て来たのか、立ち上がりそうな勢いでギターを掻き鳴らすシーンもいつの間にか見られるように。わたしもなかなか没入できなかったわけだが、徐々にカネコアヤノと会っているという非現実を受け入れてくる。アコギをエレキに持ち替えた中盤にはようやくわたしは”ゾーン”に入って見ることができた。歌はできる限り生の音を拾うようにセッティングされ、リバーブのかかったそれはきれいだった。アコースティックギターを器用に指先でやさしく弾いたかと思えば、力いっぱいストロークして掻き鳴らす姿にも心を打たれた。エレキギターの歪みすらも美しく、特に「気分」の強弱のはっきりした演奏には潔いほどに色気や人間味を感じた。
終盤はアコースティックギターに持ち替えての演奏。飲み物の飲み方も乱暴になってきて、いよいよ覚醒かと期待。と同時にわたしは終わりに近づいてしまっていることを否応もなく感じ取って、まだ見たい、まだ聴きたいと感じ「やめないで」と祈った。そんな最終盤は圧巻だったから余計にそう思って。「光の方へ」、「さびしくない」、「わたしたちへ」を立て続けに演奏(順番はあってるか自信がない)。「光の方へ」以降は完全にバンドのkanekoayanoモードになって獰猛でカネコアヤノ自身でもコントロール不能な生き物に変貌。「さびしくない」は「♪最近はー、さびしくなぁいっ♫」のシャウトにうるうるくる。そしてそしてラストの「わたしたちへ」は感情に振り回されそうなのを必死に抑えようとするカネコアヤノが見られた。なんて人間味。前の2曲もそうだったけれど、それ以上にギターを食いつくように掻き鳴らしていた。その一生懸命さに胸を撃ち抜かれる。
アンコールは案の定なかった。わかっていたが「燦々」を聴きたかったなとも頭の片隅に。わたしはさびしくてたまらなかったが何事にも終わりはある。永遠なんてない。でもきっとまたカネコアヤノに会える。そう願わずには帰れなかった。バンドもいいけど、個人的には弾き語りの方が好きかも。重複するが動物寄りのカネコアヤノを見られるからだ。ライブではそれが全開なのだが、ひとりだと意図的に隠したり、無意識に出てしまったりするから、とても生々しく感じる。とにかく、カネコアヤノは観客ひとりひとりと向かい合って歌い、出会っていた。丁寧に誠実に。そんな彼女に惚れずにはいられない。
『次はいつ会える?バンドでもソロでもいいからとにかく会いたい。今回やらなかった曲も聴きたいよ。いつの間にかあなたにズブズブで、すっかり推しになって、お金もないのにできる限りの推し活までしてる。ズボッとハマった泥沼。あ、パーカー出してよ。また買うからさ。マネージャーさん同席でいいから、今度、お客ではなく直接会えるように、わたしも創作がんばるから待ってろよ。それまでもっともっと高みに達して待ってて。それくらいじゃないとがんばり甲斐がないってものさ。座席からステージまで近かったから、そちらの世界も遠くないと思っちゃった。勘違い?少なくともわたし個人は、そちらの世界に足を突っ込めてる気がしたよ。きっと思い違いだ。成功はしたくないがあなたには会いたい。そんな言葉ばかり書いてると妻に嫉妬されて怒られるからこのへんに。またどこかで。元気で暮らしてください』
❒❒❒カネコアヤノ 単独演奏会2024@上田映劇