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憲法 表現の自由と名誉権の調整

 憲法21条の「表現の自由」と、憲法13条の「名誉権」は、矛盾する(衝突する)こともある権利です。

 これは、表現の自由(憲法21条)を重視すると、名誉権(憲法13条)が損なわれる可能性が上がることからも明らかと思います。

 ここで、名誉を傷つけた場合の罪として刑法230条の名誉毀損の罪があります。刑法230条1項の規定から考えると、「表現の自由」より「名誉権」を重んじているように思えます。この「表現の自由」と「名誉権」の釣り合いを取るために設けられたのが刑法230条の2のようです。

 刑法230条の2に関連する判例として、夕刊和歌山時事事件(昭和41(あ)2472)があります。

 夕刊和歌山時事事件では、刑法230条の2の趣旨は、人格権としての個人の名誉の保護(憲法13条)と、憲法21条による正当な言論の保障との調和をはかつたもの、とされています。また、夕刊和歌山時事事件では、刑法230条の2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しない、としています。

 つまり、刑法230条の2第1項に規定された違法性阻却事由について事実の錯誤があった場合には、名誉毀損罪は成立しないとしています。

夕刊和歌山時事事件(昭和41(あ)2472) 判決文の一部

しかし、刑法二三〇条ノ二の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法二一条による正当な言論の保障との調和をはかつたものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法二三〇条ノ二第一項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。これと異なり、右のような誤信があつたとしても、およそ事実が真実であることの証明がない以上名誉毀損の罪責を免れることがないとした当裁判所の前記判例(昭和三三年(あ)第二六九八号同三四年五月七日第一小法廷判決、刑集一三巻五号六四一頁)は、これを変更すべきものと認める。したがつて、原判決の前記判断は法令の解釈適用を誤つたものといわなければならない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/801/050801_hanrei.pdf

・憲法13条

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

・憲法21条

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

・刑法230条 名誉毀損

(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

・刑法230条の2 公共の利害に関する場合の特例

(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

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