the pillows

ネタ見せに合わせて少し早めにカフェに集合し、the pillows解散の知らせを見て、気もそぞろに(もちろんとはいえしっかりと、プロだから)ネタ見せに参加し、新宿に移動してからライブに2本出て(プロだから、凛々しく)、諸々終わってスマホを見てみたらばやっぱりpillowsは解散していた。


もういくらなんでも聞き飽きたよ!みたいな曲を聴き返すだけで、寝ていた細胞が起き上がって叫ぶ。集合体たる僕も叫びたくなる、叫ぶかわりに、走るみたいに歩く。



苦しいし、どう言葉にして良いやら分からない。
ちんけに表現したらケチがついてしまう気がする。
でもまあ、僕はもう良い大人だから、浅かろうがエモ腐ろうが、自分の青春時代を背負うっきゃなかろうと思う。
でもまあ、ケチがついたとて、ダサくなったとて、後からかっこよく唄い飛ばすしかないのかなと思う。



大人になっていくにつれて、人生の然るべきタイミングで信じるものに出会い、そしてそれらは少しずつ確固たる土台を築いていった。

中村航の小説のように、素敵で穏やかでありたかった。四畳半神話大系の私のように、頭の堅さと臆病を笑ってもらうような存在になりたかった。

そしてpillowsのように、かっこよく、泥臭くてもかっこよく、ロックとはこうだぜと、かっこよくありたかった。
もう人生の、人間としてのルート取りは大きく逸れてしまっているけど、どうあれ僕だってpillowsのように、かっこいい、かっこよすぎるおっさんになるんだと、どこか信じて疑わなかった。冷静に見積もって造形から魅力からなんもかんも違うんだけれども、僕はpillowsみたいなかっこいいおっさんになるものだと思っていた。
僕の未来はまだまだ分からないけど、でも、pillowsは解散した。


僕は高校生だった。まだ流行りきってはないくらいのYouTubeで、たぶん本当は良くない形で上がっていた流行りのロックの動画を次から次へと飛び回り、なんも知らずにふとした拍子で出会ったのがRide on shooting starのMVだった。

他の大勢と同じように当時の僕にもえげつない稲妻が落ち、他の大勢と同じように前奏に合わせて身体をくねくねと揺らしたのであった。



小学生の頃、川上健一の「翼はいつまでも」という小説を読んだ。塾の読解問題で出てきたかなんかで、母様がハードカバーで買い与えてくれたのを覚えている。

青森の田舎の中学校、朴訥な野球部少年がレギュラー争いにもがき、性に興味を持ち、家族に反発していく中で、ビートルズに出会う。稲妻が落ちるような衝撃を覚え、身体を揺らし、一気にのめり込む。
舞台は昭和、洋楽なんて言語道断と、ビートルズは教師たちから禁止されていた。
主人公たちは教師たちの目を盗み、休みの学校に忍び込んで、ビートルズをガンガンに鳴らしツイストを踊るのだった。うろ覚えだし細かいところが違うかもしれないけど、ビートルズとツイストはこの本で知ったから間違いない。

「ビートルズを聴いたらそんなんなるのか」と子どもながらにうっすら思ったのだった。その時特段ビートルズは聴かなかったけど、エネルギッシュに描かれる登場人物に合わせて小さな僕もなんとなく高揚したのだった。

「カモンカモン、カモンカモン、カモンカモン…カモンカモン!プリーズプリーズミーオーイエー!」

と、カタカナの歌詞が縦書きに収められている不格好さも妙に覚えている。



初めてRide on shooting starを聴いた時、ああこれだと、これがその稲妻かと思ったのだった。

「デレデンデンデンー!ジャギジャンジャンジャンッジャギジャンジャンジャン!」

だった。
主人公たる僕が、その時の衝撃を忘れるまいと、縦書きか横書きか知らんけど、そこにはっきりあの前奏を刻んだのだった。




そこからの思い出は細々としている。
高校の頃好きだった子にオススメを教えてもらい、大学の頃好きだった子に僕のオススメを教えた(こう書くとめちゃめちゃ品がなく見える、でもまあ、品は無かった)。
デビュー30周年記念映画を見に行った。人生で初めて、1人で見に行った映画だった。あまりにも興奮したので、2回見た。
漫才とコント、俺たちはやれるぞと自信を持ったあたりから出囃子にさせてもらった。かっこいいおっさんになる第一歩だった。
あとはもう、ベタに、勝負の前に何度も何度も聴かせてもらった。なんかもう、書くのも憚られるレベルだけど、「I think I can」と思った時にI think I canを聴いたのだった。
でももっと聴いた。具体的に紐づけて嘘くさくなるのが嫌でやたらめったら書けない。でももっともっと聴いた。めっちゃ聴いた。いろんな場面にこじつけて、いっぱい聴いた。ほんとにほんとに。めっちゃ聴いた。曲多過ぎるだろ、と苦笑いしながらめっちゃ聴いた。


解散してしまった。
残念と、ありがとうと、虚しさと、お疲れ様でしたと、絶対やってやるからな、pillowsから受け取ったかっこよさとエネルギーを、超現実的な因果関係で持って、この世に吐き出してやるからなと、そういう思いでいっぱいだ。

ファイヤーサンダーの﨑山さんと、pillowsカラオケに行こうという話をした。どなたかお供してくれる人がいたら、一緒に盛り上がらせて欲しい。激しい曲の取り合いになるだろうが、サイコーな曲が尽きることはないであろう。



しんどい。きつい。
きつくなくなったらこの部分は消すかも。とはいえきつくなくなった時にはもう、消すことを忘れているかも。

きつい。

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さすらいラビー中田
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