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ここで装備して行くかい?

R-1グランプリ、準々決勝で敗退の運びとなった。大方(僕)の予想を裏切ってここまで進んだこと自体は素直に喜ばしいと思う。めちゃめちゃ勝ち上がりたかったけれども、仕方ない。東京二日間の配信も視聴したけれどもちっとも不満はない。悔しい。ちっとも不満はない。


出番直後のリアルな手応えで言うと、上手にできているのかどうかもよく分からず、終わった直後は「埋もれたな」と思った。「周りの人たちに埋もれた、たぶんダメだ、結構ダメ、奇跡が起きたらあるかもしんないけど、奇跡起きないとダメ、奇跡は基本的には起きない」ぐらいの感覚だった。楽屋や袖から聞こえてくる他の方はみんなもっとドカドカウケている印象だった。

一応エゴサはするか、エゴサをすることとご飯を食べることが人間の営みだものなと思ってTwitterの海に潜ってみると、存外に好意的な意見が多かった。正味予想の10倍はあった。大袈裟じゃなしに10倍はあった。

人間というものは(僕というものは?)本当に調子のいいもんで途端に「ある、あるな、準決」というスイッチが入ってしまった。1日、2日経つにつれて「決勝に行きでもして、霜降りさんにコメントとか振られたら泣きそうになっちゃうかもな、ふふ」みたいな妄想までしていた。


お風呂上がりのグループライン通知で「ひわちゃんおめでとう」という言葉が目に飛び込んできて間接的に結果を知った。腰を据えてジッと見たわけではなかったから咄嗟におめでとうと言えなくて本当に情けなかった。
あとはもう、ひわちゃん含め本当にかまして欲しいと思う人たちにかましてもらうだけだ。ワクワクに切り替えさせてもらう。

配信を見て改めて思ったけれども、ピンの人は本当にすごい。作りや見せ方が本当に緻密でかっこよかった。本当にすごい人たちに混ざってやれたのはとっても刺激的で活力が湧いた。

なまじ期待してしまった分喪失感もあったけれども、何の目的意識も無しにホームランを打ちに行っていた頃に比べたら御の字だ。今年はいっぱいキモくて好きなことを言うぞという意味でナイススタートを切れたと思う。


遡って2回戦、「キモ中(キモい中学生のこと、ネタによって高校生の時もあるけれども便宜的にこう呼んでいる)で挑もう」と決めてから、戦う上でもう一つパーツが必要だと感じていた。
着のみ着のままで臨むのはいくらなんでも味気なく、お粗末だった。


例えば分厚いメガネを掛けるとか、でかいホクロを描くとかも考えたけれども、ホクロに頼らなくとも僕は全然キモい、という自負があった。ホクロのキモと僕のキモが打ち消しあってしまう懸念さえあった。
ホクロがある分、「この人はホクロでキモを演出しているのかな?このホクロ分くらい、実際にはキモくないのかな?実際にはかっこいいかも?ホクロが無い姿を、追いかけたいかも?」と思われかねなかった。ホクロがなくても僕は全然キモい、その自負があった。


何か、直接的に顔などに手を加えない形で演出できるものが欲しい。
そこで目をつけたのがエナメルバッグだった。

威圧感のあるでかエナメルバッグ。
閃いた時はこりゃあ良い、馴染むぞ、と思った。


自宅から歩いて行ける範囲に神保町や御茶ノ水がある、普段三省堂まで足を運ぶ時に妙にスポーツショップを目にしている。神保町まで買いに行くことに決めた。
学生時代バスケ部ではあったけれども普通の学生鞄やリュックを使っていたのでエナメル製品を手にしたことがなかった。
スムーズに買えるか不安だった。普段コントで小道具を用意する習慣もないから、店内をどんな顔して歩いて良いかも分からないし、店員さんに「なんの目的ですか?」と尋ねられでもしたらもうへたり込んでしまうかもしれない。


誰かについて来て欲しかった。「人生で初めてエナメルバッグを買う」という妙な用事にすんなり付き合ってくれる人当たりの人が良かった。もっと言うと新宿や渋谷でなくて神保町にほいほい来てくれる人、そしてできれば、エナメルバッグと親和性の高いサッカーやバスケ経験者が良い。
一人だけ当てはまる人がいた。

神保町よしもと漫才劇場のエース格、ナイチンゲールダンス中野なかるてぃん。サッカー部出身。一橋大学お笑いサークルIOKの後輩。

僕のキモさ、情けなさ、気の弱さを完全に理解しているキーパーソン。
「中田さんは大喜利でよく『キス』って単語出しますけどあんまりウケてないですよね」と瞬時に見抜いた男。



ちょうど間が空いていて都合が良かったようで、劇場出番終わりにすぐに駆けつけてくれた。

完璧な付き添い人を確保して神保町を闊歩した。あれこれ回っているうちに、くだんのミズノのバッグに出会った。紐を限界まで伸ばして仕上がりを確認した。

僕の身体があまりにも長いため、紐が長く見えないのでは?という懸念もあったが、僕のキモさの前では些細なことだった。


「もしアディダスがあればそっちも提げておきたいな」みたいな妙なこだわりも出てきて、一度元の場所に戻して別の店も回ってみることにした。スポーツブティックを巡るキモマダムの誕生だった。

他のサッカーショップやバスケショップも回ったがちっとも置いてなかった。野球ショップにも行ってみたが、やはり置いてなかった。店員さん曰く今の野球少年たちはほとんどエナメルバッグは使ってないそうだ。肩に負担がかかるからとのことだった。
「今の子はエナメルバッグほとんど使ってないですねー、宜しくお願いします」と言って帰された。
「今の子はほとんど使ってないですねー、(お子さんに負担をかけないでくださいね、お父さん。お子さんの肩を守るのはご本人ではなく、お父さんですからね、)宜しくお願いします」という意味合いだったと思う。いや誰がお父さんだよ。29歳夢追い青年だぞ。


結局前述のミズノバッグに決めようと思い当初のお店に戻ったんだけれども、パキッとしたスーツ店員とパキッとしたスーツエリアマネージャー(たぶん)が先程のバッグを塞ぐようにして立ち話をしていた。
スラーーッとしていて明らかに気遣いのできる2人であったから「よもや、この香ばしいエナメルバッグを好き好んで取る人はいるまい、ここで立ちビジネストークさせてもらおう」という佇まいで話し込んでいた。

得体の知れない私服の大男がパキッとスーツの2人を押しのけてエナメルバッグを奪取するのがどうにも恥ずかしくてもじもじしてしまった。
なかるてぃんが「僕が取りに行きましょうか?」と言ってくれたけどそんなわけにはいかない、
「や、大丈夫」
「一人で取りに行ける」
「あ、あのすいません」
「取れた、バッグ取れた」
「めっちゃおどおどしちゃった」
「お会計してくるね」
というキモコンボを炸裂させてしまった。
無事購入できた。


鼻歌まじりに店を出て、今日はありがとねカレーをしばかせてもらった。神保町すごく好き。歩いて行けてカレーがたくさんあるから。



2回戦を突破できたのも、準々決勝で敗退したのもいろんな要素が絡みあってのことで一概には言えないんだけれども、エナメルバッグを抜擢したこと自体はナイスアイデアだったと思う。

エゴサをしていて、会場で見てくれていた人の「あのエナメルバッグは反則wwwww」というツイートを見つけた時は心底嬉しかった。草を生やしたツイートに対してガッツポーズを決めたのは初めてかも知れない。


一つ武器を手に入れた。少しずつ深みが出て、奥行きが生まれていく。今年はこれからどんどんいけると思う。
R-1グランプリ様、お邪魔しました。ありがとうございました。

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さすらいラビー中田
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