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閃き💡劇場27

「今日も暑いな」
僕は額の汗を拭いながらいつもの通学路を歩く
(あ、今日もいた)
毎朝同じ道を歩くと道行く人に笑顔で挨拶しながらごみ拾いをしている年輩の女性がいる。
「おはようございます!」
声をかけられてびっくりした僕は
「お、おはようございます」とどもってしまった。
毎朝の交流だ。
(しかし、毎日あそこでごみ拾いしてるなんて凄いな、どんな人なんだろう??)
と気にはなっていた。

そんなある日
夏休みを迎えた僕は何となくあの通学路を散歩しようと思い外へ出掛けた。
途中のコンビニで500mlの水を2本買う。これもなんとなくだ。

あの通学路にさしかかると、いつも見かける年輩の女性が柄の悪い男に絡まれているところを発見した。
よく見ると女性はうずくまっている。
僕は怖かったが、勇気を振り絞り、声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
すると柄の悪い男はバツの悪そうな顔をして立ち去っていった。
「大丈夫ですか?」
僕はもう一度聞くと
「はぁ、助かったわありがとう」と女性は笑顔で言った。
「何があったんですか?」
僕がそう聞くと
「ごみ拾いに夢中になりすぎて、あの男性にぶつかったの、うかつだったわ。あなたのおかげよありがとう」
「いや、それほどでも」
僕は急に照れ臭くなった。
そうだ、と思った僕はコンビニで買った水を女性に差し出した
「良かったら飲んでください。」
「あらいいの?ありがとう、君が良かったら少し飲みながら話さない?」
と女性が言うので、僕は抱えていた何故ごみ拾いをしているのか、という疑問を解消するチャンスと思い
「いいですよ」と答えた。

近くの公園のベンチで座ると水を飲みながら話をする
どうやら女性は僕の家の近所に住んでいて、一昨年ご主人を亡くした後、一人で生活しているらしい。
何故ごみ拾いをしているかというと、5年程前、町内のボランティアイベントでご主人と一緒にごみ拾いをしたことがきっかけで毎日ごみ拾いを始めたらしい。ご主人がご健在の時は2人で毎日ごみ拾いをしていたが、亡くなってからは1人で続けているという。
「寂しくないんですか?」と僕が聞くと
「不思議とね、主人がそばにいる気がするの、きっと守ってくれてるのね、今日だって君と出会えた」
「そうなんですね」
それから僕たちはひとしきり話した後、僕はなんとなく放っておけないと思い、休みの日に手伝いをする約束をした。
女性はとてもびっくりしていたが、嬉しそうにありがとうと言った。
こうして僕は休みの日にごみ拾いをするようになったが、高校3年になると受験勉強で忙しくなり、ごみ拾いに行けなくなってしまった。
そして、東京の大学に合格が決まり、4月から東京で1人暮らしをすることになった僕は女性に挨拶をしたいと思いあの通学路へ休みの日にでかけた。
すると女性は笑顔で
「久しぶりね」
と言ってくれた。

僕たちは公園のベンチで近況報告をした。
女性は受験合格を喜んでくれた。
「実はね、私も4月から引っ越すの息子夫婦のところに」
と女性は言った。
「そうなんですか!?」
僕が驚くと
「私を1人にしておくのが不安だからって、まぁ新しいところでもごみ拾いは続けるつもりよ」
「どうしてですか?」と僕は聞くと
「主人との約束だからよ、もし君が良ければ君も東京でごみ拾いをしてみて、きっと私みたいに良いことがあるわ」
「え?」
「君と出会えたことよ、本当にありがとう。楽しかったわ」
女性はそう言うと笑顔で立ち去った。

そして僕は東京へ行き、女性に言われた通りごみ拾いを続けた。
そしてごみ拾いがきっかけで知り合った女性と結婚をし、子供ができ、孫ができた今、孫と一緒にごみ拾いをしている。
あの時勇気を出さなかったらこの幸せはなかっただろう。あの女性に感謝したい。

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