閃き💡劇場32

子供の頃、将来は何になりたい？と聞かれ何も思い浮かばなかった私はケーキが好きだったから、ケーキ屋さんになりたいと答えていた。
そうしてそのまま大人になり、将来に大きな展望も情熱もなく、両親の薦めで早々と結婚し、今は子育てと仕事に追われる日々。

私の名前は遠坂舞。夫の実家が老舗の和菓子屋で、その手伝いをしつつ子育てをしている。子供がまだ小さいので、毎日忙しさに流されるそんな日々を送っている。
そんなある日。
『遠坂さん』
と保育士さんから声をかけられる。
『なんでしょう？』
『実は、翔太くんに将来の夢を聞いたんですが…』
翔太とは息子の事だ。
保育園で子供達に将来の夢を聞いたところ、何人かの子供達が夢がないと言ったらしく、翔太もその中の一人だった。
『問題はないと思います。今はわからないだけで、でも念のためお伝えしようと思いまして。』
私はそれを聞き、カチンと来た。私も同じ子供時代を過ごしてきた、それを否定されたように思えたからだ、だが親として将来に希望が持てるような事を翔太にしてきただろうか？と言われると…。
家に帰り、翔太に聞いてみた
『翔ちゃん、今日保育園で将来何になりたいか聞かれたんだってね』
『うん』
翔太は笑顔で頷いた。
『なんて答えたの？』
『うーん、わからない！』
『わからない？』
『うん、わからないよそんな事を言われても』
『そっかー、そうだよね』
私は苦笑いしてしまった。
すると翔太は『でも、ママみたいな大人になりたいな』
と言った。
『え？何で？？』
『いつも笑顔でお客さんを喜ばせてるってお婆ちゃんが言ってたからだよ』
『そうなんだ』
義母は普段から厳しくて仕事の仕方も厳しく指導してくる。そんな義母がそんなことを言うなんて…。
私がびっくりしていると、その様子を見た義母が
『ほら、何してるの、そういうところがいけないのよ、翔太があなたを誉めているのだから何か言ってあげなさい。』
『あ、はい。翔太、ありがとう。ママ嬉しい』
私は笑顔でそう言うと
『ありがとう、僕もママの笑顔好き』
と言って私に抱きついた。
『あなたはお客様に対してとても誠実に向き合っているところがいいところよ、ただ機転が利かないところがあるからそこは直してね』
義母は照れ臭そうに言うとその場を立ち去った。

子供は大人を良く見ている。
だから、周りの大人が生き生きしていないと夢や希望が持てないと気がついた。これからは私も笑顔で仕事をし、翔太に希望を持って貰えるような大人になると決意した。

それから時は流れ、翔太は成人し和菓子屋の跡取りとなった。
一生懸命和菓子と向き合い、職人として修行している。
そんな姿はとても生き生きしている。
だが、疑問に思い、聞いてみた。
『翔太、どうして跡を継ごうとおもったんだい？』
すると
『子供の頃から忙しそうだけど、生き生きと仕事をしている親父やお袋を見て、俺もそうなりたいと思ったからだよ』
そう照れ臭そうに言った目は子供の頃と変わらない輝いた目をしていた。

私の決意は翔太に伝わった。それが嬉しかった。こうして様々な事が受け継がれていくのだと改めて実感できた。
私もこれからも笑顔でお客様と関わり、この店を子孫に受け継いでいく事が今は私の夢だ。