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路地裏②

「誰かいますか」
私の声は通路に響き、誰の返事も得られぬまま消えていった。私はとりあえずそのまま、進んでみることにした。すると突き当りにはまたドアがあり、そこにはこう書かれていた。


”関係者以外立ち入り禁止” 


私は、すこし不気味に感じ引き返そうとしたその時、中から男性らしき声がした。
「お待ちしておりました。中へどうぞ」
彼はそういっている気がした。
「失礼しました。勝手に入るつもりはなかったのですが、道に迷ってしまい。。」
とっさにそう答えた。
「中へどうぞ」
今回ははっきり聞こえた。その声は録音されているかのような一定の声である。
私はドアノブに手をかけ、ドアを開けた。

目に飛び込んで来たのはまったくの暗闇である。
「すみません。。。」
その私の声は、空間の中にこだまし、すこし響き、暗闇の重さに沈んで消えていった。
「すみません」
私はもう一度、より大きな声でそういった。
「こちらへどうぞ」
今度はどこか遠くから声がした。暗闇に目を凝らすと、100メートルほど先に、かすかな明かりを見つけることが出来た。いったいここはどこなのだ。明らかにこの部屋は変である。第一この町にこれほどの巨大な空間をもつ建物はない。もしあったとしても、必ず私はそれを知っているはずである。けれども、そんなこと、見たこともきいたこともない。
「こちらへどうぞ」
低い声が、部屋に響き渡り、私の鼓膜に反響した。彼のいるらしきところから私の立っている場所まではひどく離れているはずだ。けれども彼の声ははっきりと私の元へと届く。言われるがまま自らの意志かもわからぬまま歩き出した。床は大理石のように、なめらかで、硬くしっかりしている。靴底が、床とぶつかる。その音が空間に響き渡り、一定のテンポを作り出す。近づくにつれ、明かりの正体が、デスクライトであることが分かった。ライトは高級な木製デスクを黄色く淡い光で照らしている。よく目をこらした。そこには一人の男が座っていた。

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