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路地裏③


「よくぞいらしてくれました。」
男はシワ一つない黒いスーツを来ており、ネクタイをしめている。髪は黒の短髪で、ジェルで七・三にくっきりと分けられており、目には黒のサングラスをかけている。肌が透き通るように白く、あごは細く鼻は高い。端正な顔だちだ。
「突然お邪魔してすみません。」
私は恐る恐るそういった。
「邪魔だなんてとんでもない。お待ちしておりました。」
男は顔色一つ変えず、それでもこちらに敬意を払うようにそう言った。
「ここはいったいどこなのでしょう?私はこの町を少しは知っているつもりですが、このような巨大な空間があるだなんて知りませんでした。」
男は、小さく微笑んだ。
「それもそうでしょう。この空間はあるようでないようなものです。どうぞおかけください。」
やわらかく座り心地のいい椅子であった。こんなにも非現実的な状況にもかかわらず私は不思議とリラックスしていた。

「驚くかもしれませんが、私はあなたのことをよく知っていますし、今日ここへやってくることもすべて知っておりました。」
と男は言った。
「どういうことでしょう。」
私がそう言うと、男は顎を手で触りながら、私から目線をそらし暗闇を見つめ、少し何かを考えているようであった。
「私はこの空間を作り出した者です。そしてすべてを知る義務や権利とやらを持っている。」
「”この場所”をでしょうか。」
「狭義的に言うと正しい。けれどもより正確に言うと、一般的に宇宙という概念で捉えられている空間すべてを意味します。」
男はいたってまじめにそう答えた。
「・・・・・宇宙?宇宙を作り出したのがあなた?」
「いま理解していただく必要はありません。私はある意味事故的にこの空間を作り出してしまった。そして多くの問題が私の周りでいま起きている。それを解決するために私は今回あなたをここへ呼び出したというわけです。これが最善の策であると信じたい。」
そう言って男が視線を背後の暗闇へ向けると、静かに明かりがともり壁を映し出した。同時に無限に広がるようなこの空間に終わりがあることを私は知った。その明かりはドアを照らしている。ドアはひとりでに静かに開いた。その奥には新たな暗闇が待ち受けていた。

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