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半導体産業にはどんな業界があり、どんな業務を担っているのか──新刊『教養としての「半導体」』から

世界的な半導体不足、技術をめぐる米中の覇権争い、各国による工場誘致合戦、株式市場への影響……昨今では半導体がニュースにならない日はありません。

『教養としての「半導体」』(菊地正典/著)は、現代人の生活に欠かせないスマホなどのツールの心臓であり、その重要性ゆえに世界の政治経済に大きな影響を及ぼす「半導体」にかかわるすべて──産業構造や製造技術、注目企業の特徴に加え、黎明期から国家レベルの思惑が絡む現在までの歴史とこれから──を知ることができる一冊です。

日本が半導体のトップシェアを誇っていた時代からつねに現場に身を置いてきた著者にしか書けない経験談も豊富に交えながら、専門知識を持たない読者にも十分理解できるように解説しています。

ここでは、4月19日に発売されたこの『教養としての「半導体」』の一部を公開します。まずは、複雑に入り組んでいる業界の全体像を概観します。

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『教養としての「半導体」』第1章より

半導体メーカーから部材メーカーまで―半導体業界の相関図

半導体産業は広い裾野をもち、多種多様な数多くの関連業界から構成されています。また各業界に属する企業群や関連する研究機関なども多くあり、しかもそれらがグローバルな広がりの中で相互に複雑に関連し合って産業全体を構成するという構図になっています。業界関係者ならいざ知らず、そうでない人々にとっては複雑怪奇、伏魔殿のような世界です。

そこで最初に半導体産業の全体的イメージをつかむため、半導体産業にはどんな業界が含まれているのか、さらにそれらの各業界はどんな役割を担っているのかについて見ておくことにしましょう。

半導体メーカー(IDM)と大手IT企業

インテルやサムスン、キオクシアなどの名前は聞いたことがあるでしょう。これらのいわゆる半導体メーカー(垂直統合デバイスメーカー)と呼ばれる企業群は、「半導体の設計から製造、さらに販売」に至るまでの半導体の一貫工程を自社ですべて行なう企業(業界)のことです。半導体業界では、一般にこれをIDM(アイディーエム:Integrated Device Manufacturer)と呼んでいます。

これに対し、グーグルやアップル、アマゾンなどの有名な大手IT企業の多くは、半導体の外販は行なわず、もっぱら自社で必要とする半導体の設計だけを行ない、製造面は専門のメーカー(ファウンドリー、OSAT[オーサット]などの企業)に委託します。大手IT企業も半導体業界の一つなのです。

製造装置業界、部品・材料業界、ファブレス業界

製造装置業界というものもあります。これらは半導体の製造装置をつくり、その装置を半導体メーカー(IDM)やファウンドリー、OSATなどに提供します。日本には東京エレクトロン(TEL)、ディスコなど有力な半導体の製造装置企業が多数存在します。

部品・材料業界は、半導体の製造に必要な部品や材料をIDMやファウンドリー、OSATなどに提供します。この分野も日本企業が強さを示しています。

ファブレスと呼ばれる企業群もあります。「ファブ」(fabricationの略)とは工場や設備のこと、つまり半導体の製造ラインのことです。そして「レス(less)」とは「無い」という意味ですから、ファブレスとは工場設備をもたず、設計のみを行なう企業群のことを指します。

P18より

ファウンドリーは前工程、OSATは後工程を担う

先ほどから「ファウンドリー、OSAT」という言葉が何度か出てきました。

ファウンドリー(foundry)とは、本来は鋳物(いもの)工場(型に金属を流し込んで生産する)のことを指しますが、半導体業界でファウンドリーといえば「半導体の製造ラインをもち、他社(ファブレス企業、大手IT企業など)からの受託生産を行なう企業群」のことを指します。

IDM(半導体メーカー)は半導体の一貫生産を行ないますので、ファウンドリーと敵対する企業群と思うかもしれません。しかし、必ずしもそうではありません。というのはIDM自身、一部の半導体製品を自社ではなくファウンドリーに委託することもあるからです。このため、ファウンドリー企業の顧客としては、ファブレス企業、大手IT企業だけでなく、IDMをも包含しているといえます。

もう一つ、OSAT(オーサット)とは、Outsourced Semiconductor Assembly and Testの意味で、アウトソース(外注:Out Sourced)されることによって、「組立・検査」(Assembly and Test)の工程を受託する企業群のことを指します。

「半導体の製造や組立を他社から依頼される会社」ということですが、そうすると、ファウンドリーとOSATの違いは何でしょうか。それは半導体の「前工程」(シリコンの基板上に多数のチップをつくり込む工程)を受託・生産するのがファウンドリー企業で、半導体の「後工程」(1個1個のチップを組立・検査する工程)を受けもつのがOSAT企業ということなのです。

P20より

EDAベンダー、IPプロバイダー、半導体商社

EDAベンダーという、あまり聞かない名前の業界もあります。これはEDA(イーディーエー:Electronic Design Automation)と呼ばれる「電子設計の自動化」を行なう企業のことです。EDAベンダーは、IDM企業(半導体メーカー)、大手IT企業、ファブレス企業、IPプロバイダーなどに、半導体の設計に使うツール(設計ツール)を提供します。

IPプロバイダーという企業も存在します。半導体のIP(Intellectual Property)とは「半導体の知的財産、設計資産」のことで、このIPをIDM企業、大手IT企業、ファブレス企業に提供します。

最後に、半導体商社があります。半導体商社は、半導体メーカーがつくった半導体製品を仕入れ、電気・電子機器メーカーに販売する企業で、半導体製品の商流の中間に位置しています。

これらの多数の異なる企業群が「半導体の設計〜生産〜販売」にかかわっているため、なかなか一筋縄では理解できませんが、このような枠組みの中でさまざまな半導体企業がひしめきあい、ときには競合、ときには協同しているのが半導体業界の実態です。

P21より

上の図は、半導体全体の市場を俯瞰(ふかん)してみたものですが、こうして見ると、半導体製造装置の市場は半導体市場(IDMなど)の5分の1程度で、逆に半導体を何らかの形で使った製品市場はIDMなどの6倍近くにも及ぶ巨大市場に育っていることがわかります。

著者プロフィール

菊地正典(きくち まさのり)
1944年、樺太生まれ。1968年、東京大学工学部物理工学科卒業。日本電気(株)に入社して以来、一貫して半導体デバイス・プロセスに従事。同社半導体事業グループの統括部長、主席技師長を歴任。(社)日本半導体製造装置協会専務理事を経て、2007年8月から(株)半導体エネルギー研究所顧問。著書に『〈入門ビジュアルテクノロジー〉最新 半導体のすべて』『図解でわかる 半導体製造装置』『プロ技術者になる! エンジニアの勉強法』(以上、日本実業出版社)、『「電気」のキホン』『「半導体」のキホン』『IoTを支える技術』(以上、SBクリエイティブ)、『史上最強図解 これならわかる!電子回路』(ナツメ社)、『半導体工場のすべて』『半導体産業のすべて』(以上、ダイヤモンド社)など多数ある。

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