薬害の問題

 私は「薬嫌い」です。正確には、薬を怖いと思っています。薬そのものにも薬を処方する医者にも微妙な不信感がぬぐえません。
 人間としての医者そのものを疑うつもりはありませんし、医者を否定するつもりもありません。それとこれとは別です。
 医者がどんなにいい人であっても、処方された薬が思わぬ薬害を引き起こすことがある。
 薬が認可されるまでには実に慎重なテストが繰り返されるのも分かります。万全の注意をはらって慎重に作られた薬でも、どこかに落とし穴があったりする。気づいたときには、取り返しのつかない事態になっている。
 私の若いころ、その手の問題が世間を騒がせました。大騒ぎになりました。薬害問題です。サリドマイド、クロマイ、スモンと立て続けに大掛かりで深刻な薬害案件が続いたのです。

 今ごろ、こんなことを書く気になったのは、パラリンピックを見ていて、昔マスコミで大騒ぎされたサリドマイド児を思いだしたからです。当時サリドマイド児は当時いろんな形で喧伝され、写真も紹介されていました。
 睡眠薬が原因で障害のある赤ちゃんが誕生したことも判明しており、安易な服薬の怖さを国民みんなが思い知らされました。
 サリドマイドは安全な睡眠薬と言われていたのです。58年に販売が開始されて以来、妊婦にも安全とされていたようで、むしろつわりを押え安眠できるとして推奨されていたらしい。
 しかし61年11月にドイツの調査でサリドマイド剤が原因で奇形児が生まれるという警告が出されました。欧州各国では直ちに回収。
 問題は日本です。日本ではそのまま放置され、対策がとられたのは翌年62年の9月でした。一年近く対策が遅れたために被害が拡大したのです。
 私は当時子供も生まれていましたから、当時の厚生省に対して強い不信感を持ちました。役所任せにしてはおけない。医者を安易に信じるわけにもいかない。子供を守るのは母親である私の役目なのだから役所や医者を信じてまかせるわけにはいかない。子供の命と健康は自分で守るしかないと痛感させられたのでした。

 同じころスモン病もマスコミをにぎわしていました。60年代に、目が見えにくくなったり足がマヒして歩けなくなる人たちが多発し、原因不明の奇病と報道されていました。かつてのハンセン氏病と似たような印象で、患者さんたちは余計に苦しんだと思います。
 70年にようやく整腸剤として使われていたキノホルムが原因と判明。キノホルムを含む薬剤は186品目もあり、市販薬にも含まれていて誰でも自由に購入できたのでした。安易に薬に手を出してはいけない。医者の処方だからといって素直に信じるのは危険すぎる。この件でも強く思いました。
 クロマイ(クロロマイセチン)と通称されていたクロラムフェニコールも人気で多用されていた抗生物質でしたが、再生不良性貧血という深刻な副作用があるのでした。医者もそれに気づいてなくて、クロマイ薬害訴訟もあり、入院して治療を受けていた娘をクロマイのせいで死なせてしまった手記『ママ、千華を助けて』はベストセラーにもなりました。

 そんな時代だったのです。何を信じていいのか分からない。医者も病院も信頼できない。もちろん薬も信用できない。自分や家族の健康は自分で守るしかない。それが骨身にしみる社会情勢でした。
 今は様々に改善されているかもしれませんが、私はやっぱり薬を信じきれない気持ちが今でも残っているため、風邪や頭痛で薬に頼る気にはなれません。痛み止めもできるかぎり飲まずにすませたいと思います。薬よりは生きようとする体の力を信じたいと思っています。

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