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「丸沼芸術の森所蔵 アンドリュー・ワイエス」展@大山崎山荘美術館

11月7日に大山崎山荘美術館で開催されているアンドリュー・ワイエス展に行ってきました。
大山崎山荘美術館でワイエス展をやると聞いて、なんてぴったりなロケーション、しかも秋にやるなんて季節としてもぴったり、と心待ちにしていました。
その割に気付いたら後期に入っていましたが…

木曜日という平日に行ったのに結構な混雑具合で、この展覧会の人気具合が伺えました。

今回の展覧会は埼玉県にある丸沼芸術の森が所蔵する、水彩画や習作の展示でした。
かの有名な《クリスティーナの世界》が描かれた背景がよく分かる展示となっており、その舞台となったオルソン・ハウスに関連する作品となっていました。

《クリスティーナの世界》といえば、少し思い出のある作品。
美術の教科書に載っており、それがとても印象的でなんだか惹きつけられる作品だなと、高校を卒業しても捨てられずに教科書を持っていました。
社会人になってアメリカ出張が入った時、休日を使って一人でニューヨークに行った時、MoMAにて思いがけず出会ったのが《クリスティーナの世界》の世界だったのです。
あまりにさりげなく飾られていたので、「あ、教科書に載っていた作品だ!」と気付いた時には、道端でばったり久しぶりの人に会う気分でした。

《クリスティーナの世界》に魅了されていたものの、実はその背景や、ワイエスのことはまったく知らない状態でした。
ですので、今回の展覧会でクリスティーナやその弟アルヴァロ、そして二人が住むオルソン・ハウスについてじっくりと学べたという点でも、有意義な展覧会でした。

ただ少し気になったのが、クリスティーナやアルヴァロは、自分たちの家をこうやって描かれて、果たして嬉しかったのだろうか、ということ。
確かに芸術家にとっては、絵心がくすぐられる荒れかけの家ではあります。
でも実際に住んでいる人たちにとって、こんなに寂しげに朽ちていく美、みたいなものを表現されて嬉しいものなのでしょうか。
クリスティーナは聡明な女性だったということなので、詩情あふれる家として描かれて、芸術作品として昇華される自分の家を、ひょっとしたら喜んだかもしれないな、などなど、ちょっと余計なことまで考えてしまったのでした。

本日のBEST《物置のドアの前のバスケット》

水彩画とは思えない重厚な雰囲気の作品でした。
他にも似たようなタッチの作品がたくさんあったのですが、水彩画の知らない表現方法を見せてもらったような気分になりました。
その中でもこちらは、ほぼ暗い作品となっているので、余計に水彩画でも深みを出せるということがよく分かった作品でした。

画面の下部の中央に置かれるバスケットが、手前部分が明るくあるのですが、ここも水彩っぽいにじみがなく、ドライウォッシュで描かれているのか、かさついた質感がよく出ていました。
よくよく観察すると、水彩の水で薄めたような色合いが使われているのですが、にじみはほぼありません。

ドアの影部分はかなり暗く、ほぼベタ塗のようにも見えるほどですが、紙のたわみが確認できたので、ここもどんどん重ねて描いていったのかなと思いました。
技法に「ドライウォッシュ」とは書かれていないものの、水量を少なく、重ねて色を乗せていっているようなので、ものすごい時間がかかっているように見えました。
この手間をかけることによって、ドアや壁、バスケットのそれぞれのざらざら感が出ているのかなと思いました。

その他気になった作品

以下、気になった作品のメモです。

《《青い計量器》習作》
こちらを本日のBESTにしようかとも迷った作品。納屋の中に布がかかた台があって、その上に計量器が置かれている。
地面にある藁は絵具で描かれているところもあれば、紙をひっかいたように削っているのもあって面白い。

《《海からの風》の習作》
遠くから見ると、風にレースのカーテンがあおられているのがよく分かり、そのレースの模様も見えてきそうなのだが、近くで見るとレースの模様がよく分からなくなってしまうくらいざっと描かれている。遠くから見た時と、近くで見た時の印象の差が大きいのが驚きだった。

《霧の中のオルソンの家》《オルソンの家》
似たような構図の絵が並んで飾られているのを見ると、季節によって家の顔が変わるんだな、それを描きたかったのかなと思わされた。《霧の中~》の方は手前の草が黒々としていて、よく見ると草花が細かく描かれている。ぱっと見では分からないところを緻密に描くことによって、存在感を増しているように思った。
逆に《オルソンの家》は雪景色で、あまり描きこみがないのだが、それでもちらちらと描写がある。それがかえって寂寥感を出している気がした。


ちょうどこの日、ものすごく寒くなった日だったので、このワイエスの絵の寂寥感ともマッチして、しみじみと鑑賞できたような気がします。
夏に見ても白々しく感じてしまうだろうし、冬に見たらますます哀しい気持ちになりそうだし、秋が丁度いいな、なんてことも思ってしまいました。

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