
自分の作品がお店に並んでいた
去年の文学フリマ大阪12をきっかけに、北海道旅行記として出品していた『アイヌイランカラプテ旅』を販売してくださっているお店がある。
去年オープンしたばかりのZINEと雑貨のお店、伍頁さんだ。
夙川という雰囲気のよさそうな所にあり、公式のInstagramで見てもおしゃれなお店のようだった。
こんな所に置いてくれているのかと思うとそわそわしていたのだが、そんなに遠くないはずなのに、意外と神戸方面に行くことがなく、なかなか覗いてみることができていなかった。
それが念願叶って本日、ようやく伺うことが出来た。
夙川駅に降り立ち、Googleマップを頼りにお店へ向かう。
雨の予報はなかったのに小雨だかみぞれだかが降ってきて、初めて行くお店にちょっと緊張していた身としては、日を改めようかななんて弱気なことを考えてしまった。
いやいや何を怖気づいているんだ、と言い聞かせながら、コートのフードをかぶってお店を向かった。
お店は、桜で有名な夙川沿いに少し歩いてから、閑静な住宅街の方へ曲がってしばらく歩いた所にあった。
Instagramで見かけた、シンプルでどこか北欧のイメージを沸かせる店構えを見た時に、「本当にあった」と変な感想を抱いてしまった。
寒さもあって、先ほど覚えていた緊張もほぼなく扉を開くと、こじんまりとしつつも心地の良い空間が迎えてくれた。
壁が白くシンプルな佇まいでありながら、棚や机がアンティーク調の木製の物なので温かみもある。
そしてすぐに『アイヌイランカラプテ旅』を見つけることができた。
お店、しかも素敵な空間にあることに、またもや「本当にあった…」と感慨深く思ってしまった。
店員さんが「いらっしゃいませ」と言ったきり、姿を消してくれたので、気兼ねなく色々とZINEを見ることができたのも、人見知り気味の私としてはありがたかった。
実のところ、ZINEは文学フリマに行くまで存在も知らなったし、見たこともなかった。
文学フリマでも数々のZINEを見て面白いと思っていたが、こうしてセレクトショップのように厳選されて置いてあると、よりじっくりとZINEの面白さを堪能できるような気がした。
こう見てみると、各々の好きがぎゅうぎゅうに詰めこまれていて一冊一冊が愛おしくなる。
旅の本であっても、ガイドブックや雑誌の特集のように、分かりやすいきれいな写真、可愛い絵が並べられているようなことはなく、作者さんの偏愛が爆発したような作品ばかりだった。
よく考えれば、頼まれてもいないのに絵を描いたり、写真をレイアウトしたり、文章を書いたりしたうえで、印刷して製本しているのだから、それくらいの熱量がなければ出来上がらない。
自分の旅行記が暑苦しいかなと思っていたけれども、なんのその。どの作品にも、何かに対する愛の暑苦しさは、多かれ少なかれ必ずあった。
そうした作品の表現の自由さにわくわくしながら、気付いたら結構な時間を過ごしていたことに気付いた。
迷いに迷って一冊購入することにして、レジに持って行く。
そして実は『アイヌイランカラプテ旅』の作者で、作品を置いてもらっているのが嬉しい旨と、その部分の写真を撮っていいか聞く。
すると「ああ!文学フリマ大阪で、終了間近に押しかけてしまって…その節はすみませんでした」と声を掛けてくれた。
まさか覚えてもらっているとは思っていなかったので、いささか驚いてしまった。
文学フリマ大阪でお話したのはその方の奥様ということで、このお店のデザインもレイアウトも奥様だということ。
『アイヌイランカラプテ旅』の感想も言ってくださったり、北海道旅行についてなど、色々と話し込んでしまった。
穏やかに、訥々と語られる姿を見て、こういう方たちがされているお店に置いてもらって嬉しいなとしみじみと思ったのだった。
文学フリマ大阪に出た時には、まさか自分の作品がお店に並ぶとは思っていなかったし、今回お店に行くまでも、一般のお店に置いてあることが実感できていなかった。
それがあの素敵な空間の棚に置いてあるのを見ると、なんとも光栄で、面映ゆい気持ちがした。
こんな経験をさせてくれた伍頁さんには感謝しかない。