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「立春歌舞伎特別公演」@大阪松竹座
久しぶりに歌舞伎を観に行った。
大阪松竹座で行われている「立春歌舞伎特別公演」の夜の部、「義経千本桜」を観た。
久しぶりの歌舞伎は、本当に楽しく、これぞ歌舞伎!というエンターテイメント性満載のものだった。
常々歌舞伎は、何を最初に観るのかで好きか嫌いかの明暗を分ける気がするのだが(もちろん、そもそもまったく合わなかったという場合もあるが)、そういう意味では今回の「義経千本桜」は初めて歌舞伎を観るという人にもぴったりだったと思う。
さすが「大阪国際文化芸術プロジェクト」と銘打っているだけある。
なんでそう思うのかをベースに、面白かったポイントを3つ挙げたいと思う。
まず一つは演目がいい!
「義経千本桜」は、「仮名手本忠臣蔵」「菅原伝授手習鑑」とあわせて三大名作狂言の一つ。繰り返し演じられている演目である。
それだけ愛されている作品というわけだが、個人的には三つの中でも特に「義経千本桜」は分かりやすい演目だと思っている。
加えて、今回はちょっと珍しい編成になっていた。
この三つの作品は、通しでやろうとするとめちゃくちゃ長い作品なので、多くの場合はどこかの場面を抜粋して興行にかけられる。逆に言うと、抜粋しても十分見ごたえあるくらい、一場面でドラマが完結するのだ。今でいえば連作ドラマに近い感覚かもしれない。
特に「義経千本桜」というのは、源頼朝に謀反の疑いをかけられて都落ちする義経が、その旅先で実は生きていたという平家の侍たちと出会うという話なので連作感が強い。
そして連作の箸休め的に、義経に会おうと吉野に向かう静御前とそのお供、忠信の話が入り、最後は義経と再会して終わり、というのが大筋である。
そんなわけで歌舞伎で興行にかけられるのが、平家の侍との話のどれかか、静御前の話(というか踊り)か、最後の結末かという感じなのだ。
それが今回は、物語の発端である義経の都落ちと、静御前と忠信の踊り、そして最後の義経との再会の話、そして普段はやらない最後の最後の結末という流れだった。
こうなると、始終、義経側の話だけとなるので、非常にすっきりとして分かりやすかったのだ。
もちろん平家の話も素晴らしく、むしろ「義経千本桜」の真髄はそちらの方にあると思うので、演目のファンであればちょっと物足りなかったかもしれない。
でもこれほどに「義経千本桜」をエンターテイメントとして楽しめたのは、この編成だったからだと思っている。
二つ目は歌舞伎らしいアクロバット満載だったこと!
そもそも今回夜の部を選んだのは、「義経千本桜」でも「川連法眼館の場」があったからだった。
これは何かというと、義経と静御前が再会する場面なのだが、その際に今まで静御前のお供をしていた忠信は、実は狐だったということがばれる。
本当は狐の忠信は欄干の上を歩いたり、あちこちから出てきたりとアクロバティックなのだ。
因みに役者によっては宙乗りをする時もあるが、今回はなかった。
それだけで楽しそうだと思っていたのに、びっくりなことに全三幕のすべてに立廻りがあったのだ。
立廻りというのは、殺陣みたいなもので、とにかく大勢の人が出てきて一人に戦いを挑む。
一幕目だったら弁慶に対して大勢の人が出てきたし、二幕目と三幕目は忠信に対して出てきた。
そして棒やら刀やらを振り回したり、宙返りをしたり、もうとりあえず派手。
宙返りも普通の宙返りもあれば、人を飛び越えての宙返りがあったり、全員そろっての宙返りと、まあとにかくすごいの一言。
これが全部の幕にあるのはなかなかないことで、大盤振る舞いの大迫力だった。
三つ目は色んな音楽が聴けたこと!
最後はちょっとマニアックになるが、「義経千本桜」は元々人形浄瑠璃だったのもあり、ベースは義太夫節となっている。三味線は太棹といわれる重厚な音色のもので、歌というよりは語られる。
でも伴奏で長唄(三味線は細棹)が流れ、途中で清元節(三味線は中棹)と義太夫節の交差があり、そして大薩摩まであったのだ。
義太夫節は重厚だし、何よりも撥でパツンと叩くように弾くのがかっこよく、合戦を語るシーンは血が騒ぐ。
「義経千本桜」で大薩摩を聞いたことがなかったので、出てきた時には興奮してしまった。とにかく三味線の早弾きがすごくて、クラシックの超絶技巧に近いものを感じる。
どの三味線を聞いても、やっぱり三味線の音ってかっこいいよなぁとしみじみ思ったのだった。
以上が良かったポイント3点になるが、それ以外に特筆すべきは若手の活躍が目覚ましかったこと。
若手が主要な役を務めていたのだが、しっかりと芝居を楽しませてもらえた。
歌舞伎を観続ける面白さに、役者を子どもの時代から成長を見ることができるというのがあるが、今回も前々から「しっかりしてるなぁ、うまくなるだろうなぁ」と思っていた役者さんが、成長されてものすごい迫力になっていたので、ますますこの先が楽しみになった。
やっぱり歌舞伎、好きだなぁ。