Phantom Love 【800字小説】
イケてない男子が眼鏡を外したら美少年だった。
モブでしかない女子が眼鏡を外したら美少女だった。
そんなのは、お話の中でのみ起こりうる奇跡である。
その男もまた、眼鏡をかけていた。
だが、外しても美少年ではないどころか、彼は眼鏡を外すと目のふちにある傷が丸見えになってしまうため、よくヤクザ者と間違われていたのだ。
「だから、外してってば!」
腰に手を当て凄んでいるのは、最近バイトに入ったばかりのJK。男は彼女の教育係を任されていた、いわば先輩という立場でありながら、何故かタメ口で命令されている。
「嫌ですよ。それになんでタメ口なんですか」
男はそう言って抵抗する。
「ちゃんと顔見せてほしいの!」
そう言いながら背伸びをして眼鏡に手を伸ばす。その手を寸でのところで掴むと、やんわりとおろす。
「俺、顔に傷があるから眼鏡外せないんです」
言いたくもなかったが、ハッキリとそう、断る。
「……あなたが好きです」
唐突な告白を受け、男は喜ぶより先に怪訝な顔をしてしまう。
「なに言って、」
「その傷は! 車に飛び出した子を助けようとして出来た傷!」
ピシャリと言い当てられ、口をあんぐりと開ける男。
「助けられた子は! 私!」
JKがバン、と自分の胸を叩き、言い切った。
「ええっ?」
確かにこの傷は人助けで付けた傷だ。しかし、残ってしまえばただの傷だ。元々一重で怖い印象の自分の顔に傷が出来たことで、より一層迫力が増してしまったのは確かだし、この傷のことで何かいいことがあった記憶はない。が、いや、そんなことより、
「あの時の子? 君が?」
助けた子は当時小学生高学年。こういう言い方はなんだが、可愛いタイプの子ではなかった。しかし、今目の前にいるのは……。
「あなたに好きになってもらえるような女の子になりたくてめちゃくちゃ努力したんだから! その傷は私にとって、愛の結晶です!」
顔を真っ赤にしながらそう告白してくる彼女。
世界が少し優しくなった気がした。