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月の光と黒い犬


写真の絵は、いつか月の光の下で見た梔子(くちなし)の花の絵。強い芳香を放ちながらゆっくり開いていく様子を描きました。

2003年の年末から愛犬と1日2−3回の散歩をするようになって、昼も夜もゆっくりと季節を楽しむ生活が訪れました。特に日中だけでなく夜も開いている花というものに、とても惹かれました。とりわけ月光に照らされて甘い香りを放つ梔子は、本当に美しかった。

もともとは海辺の放浪犬だったP(ノラ、という表現が好きではないので放浪犬と呼んでいます)と仲良くなったのも、月明かりだけの海辺でした。

月明かりがやけに眩しかったあの夜。いつの間にかやってきて、誰もいない真っ暗な海を、私とふたり、並んで眺めてくれた一匹の黒い犬。

あの頃の私たちはどちらも孤独でした。車からポイッと捨てられて海辺に住み着いたまだ若い放浪犬と、休むまもなく必死で働きながらも、どこにも居場所を見つけられない放浪人間。帰る場所もなく、行くあてもない生きもの。

同じ気持ちの生きものを互いに見つけた、瞬間だったのかも。だからこそ強烈に惹かれあったのかもしれません。

Pは昨年末、お空に身体を返してしまったけれど、16年間、犬と人間という種族を超えて信頼しあった唯一無二のパートナーです。今もこれからも、きっと、ずっと。

月光には、あれは夢だったのだろうかと思うような愛おしいPとの思い出がたくさん詰まっています。


写真:「月光」
2015年、HIGASHIYA銀座店に展示。
(niŭ 2014 /60号キャンバス、ジェッソ、アクリル絵具、コンテ、タルク)



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