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モデルさんの時の話を、少し。

これはいつの写真だろう。

多分7-8年前。まだモデルさんのお仕事をしていた時。

今はお空に昇って行ってしまった、憧れの大先輩と久しぶりにお仕事をご一緒した日の朝に、光がきれいだったスタジオの窓辺を撮った写真。

大先輩は、とても穏やかな方だった。素敵な方だった。

この写真を見るたびに、とてもきれいな朝の中で微笑んでいたその方の内面から滲み出るような美しさを思い出す。

その方とはモデルデビューしたての初仕事でご一緒させていただいた。

私は全くの新人、彼女はもうすでに超有名なモデルさん。緊張している私に、優しく声をかけてくださった。

もう28年も昔のことになる。

この写真を見ていたら、素敵な先輩との思い出から、デビュー当時の自分のことを思い出して、顔から火が出そうになったのでした…それで、モデルさんの時のことを少しだけ、話そうかと思ったのです。「どんな仕事でも、全身全霊、気持ちを入れてやる」ということを学ぶ前の、自分のことを。

さて。

デビュー当時。自分の将来的にやりたい「ものづくり」の仕事に活きるに違いないなどと周りには言っていたけれど、本当はあまりにも引っ込み思案でいつも自信が持てない自分に嫌気がさして「変わりたい」と強く思っていたから、スカウトがきっかけで飛び込んだモデルの世界。

でも、自分の容姿に自信がなく、普段は写真にもできる限り写りたくなくて、人に注目されると固まってしまう私には、モデルという仕事は苦痛で仕方がなかった。

なぜ、笑うのか、なぜ、ポーズをとるのか。

それすらもわからないまま、見様見真似でお仕事していたのは、今思えばなんて失礼なことだったろう。

大学を出て就職もせずになぜモデルなんか、と周囲からは猛反対を受け、恥さらし、とまで言われた。モデルでどんなにいい仕事をしても、心から喜んで応援してくれる人はいなかった。目立つCMや広告などには出ないという約束で、始めたからには3年間は頑張る、と宣言した通りキッパリ辞めた。モデルという経験で、相変わらず自信はないけれど、以前ほど引っ込み思案ではないし、知らない人とも話ができるようになった。それだけでも十分じゃないか。そう自分で納得して。

辞めた数ヶ月後から会社に勤め、普通に仕事をしていた。会社での仕事は楽しかった。とてもやりがいを感じていた。

その会社は、初日から机と、電話と、当時(25年前)は珍しかった一人一台のパソコンを与えてくれた。そして、放っておかれた。

最初は楽だな、と思っていた。やることは電話の取り次くらい。あとは自習でパソコンの操作を覚えるくらい。でも、途中で気がついた。

「この会社、自分で仕事を探さなければ使えない人材として、自然とクビになる」

ということを…

同期の何人かは気がついて仕事を探し始めていた。私も「役に立とう」「人がやっていない仕事を見つけよう」と動き回った。お茶汲みを頼まれたら、可能な限りおいしく淹れたお茶を出そうと心がけた。少しでも仕事が溜まっているところを見つけたら、手伝います!と走った。「いい仕事をしよう」と頑張ることそのものが、働くモチベーションになった。競争は激しかったしハードルは高かったけれど、2年ほど経つと、運良くやりたかった部署に配属してもらえて、責任ある仕事を任されることも増えて、とても嬉しかった。

けれどずっとモヤモヤしていた。

モヤモヤしたまま、数年がたったある日。いつもの道を、会社に向かって歩いていた時に突然、あと3年で20代が終わる、これで、自分は本当にいいのかな、と思ったら足が止まってしまった。

「せっかくやらせてもらっていたモデルさん、3年もやっていたのにこんなふうに頑張れたことなかったな」と思った。

周りに押されるまま、達成感も喜びもないまま、よくわからないまま仕事をして、よくわからないまま辞めてしまった。モデルになって私は何をしたかったんだろう?今ほど一生懸命な気持ちでモデルさんのお仕事をしていたら、もっと理想に近い仕事をできていたんじゃないだろうか。

何をしたかった?そうだ、パリコレに出たかった。身長は低いから、到底無理だとしても、もっとショーの仕事がしたかった。「ファッション通信」の大ファンで、ショーで歩くモデルさんたちを見て、海外のかっこいい雑誌の仕事をしているモデルさんたちをみて、あれをやってみたい、と思ったはずだった。でも私になんて無理だと思って恥ずかしくて、言えなかった。

今の会社でだってお茶汲みのような一見やりがいのない仕事でも、おいしくお茶を淹れるように心がけていたら、お客さんに君が淹れたお茶はいつも美味しいね、と言われて嬉しかったし、そんな小さなことからどんどん取り立ててもらって、自分のしたい仕事をできるようになってきた。

モデルさんの時は、どんな仕事にも全力で取り組んでいなかった。自分には向いていないとか、こんな仕事、やる意味があるんだろうかなんてことばかり考えて。

モデルも裏方なのだ、仕事である以上、同じなんだ。ものすごく貴重な機会を与えてもらったにも関わらず、みんなでいいものを作り上げるためのピースとして全力を尽くさなかったことを、私は一生後悔し続けるんじゃないだろうか?

そんな思いが膨らんで、ある日、会社に辞表を出して27歳でモデルに復帰した私。

「そんな年齢で復帰されても仕事なんかない」とまで言われた散々なスタートだったけれど、背水の陣でのぞんだ復帰戦。全力で、やってみた。

そこから約3年で、身長168センチの私が、パリコレに出演することができた。日本のクリエイティブな撮影も、海外のかっこいい撮影のお仕事もいくつも出演させてもらった。

この間、3年間のまるでスポ根漫画のようなお話は…またいずれ。

濃厚すぎて、語りきれない…です。



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