白南風
その文脈は
希少になるほどに尊く
孤独は凍りついてしまう
異なる文脈が
やがて流れ出せば
軽薄に単純に
扇動と恣意的な誤解の屑に
成り下がってしまうだろう
ポップな曲だけが
昇華と飛躍を担い続ける
文字が一つまた一つ
紙魚に喰われて消えていく
詩想が一つまた一つ
無形のままに忘れられていく
忘れられた星空は
厚い雲に覆われて見えず
避けられる陽光は
経済に喰われ奪われ
唯、街は
狂騒の末に打ち捨てられた
始発の駅のように汚れていく
言葉は過ちを多く含む
けれど真実の光を確かに宿す
青く瞬き揺れ
遥か遠望される虚空の輝点
この星では
色のない妖たちが
不思議な繁茂を見せている
大切に清潔に扱われた言葉は
尊くも美しい
神寂びた詩となり
夜明けに高く低く響き
久遠の果てへ棚引き消える
粗雑に不潔に扱われた言葉は
恐ろしい怪異な
呪いの姿として
夜の闇を赤く明滅させ
思いもかけない姿を現す
言葉のない文脈の
白南風が杜を揺らして
光の強い夏が始まる
しかし或いは
夜はもっとも暗くなり
異形の付喪神たちの
百鬼夜行が透けて行く
※白南風(しろはえ/しらはえ) 梅雨明けに吹く南寄りの風。